「男のクセにメソメソすんじゃねぇよ。・・・・ホラ、鼻水!垂れてンぞ。」
「・・・・うん。」

あの後、二人は逃げる様にその場を去った。もしかしたら増援を連れてくるかもしれない。幾らなんでも流石に子供二人では無謀過ぎるだろう、無用な痛手は御免蒙りたい。
スラム街の一角、幅の狭い路地裏をか細い嗚咽を響かせながら二人は走る。

「しっかし・・・・こりゃあ寝床変えなきャな。これ以上居るとまたボコられちまう。」

鈍色の空を仰ぎながら当て付けと冗談を交えた悪戯っぽい声でベルが呟いた。

「ごめんね・・・・僕のせいで。・・・・でっ、でm・・・・「冗談だっての。真に受けんなよ。」
フイ、とベルがカレルに目を遣ると其処には目を丸くするカレル。
ポカン、と開けられた口が間の抜けたと言う表現に拍車を掛ける。

「・・・・どした?」
「え?あっ、い、いや!!ベルも冗談なんて言うんだなって・・・・えへへ。」

失礼なヤツだ。そう思いながらも自分でも内心驚いている。でも悪い気もしない。
「行くぞ!」眉根を寄せながらぶっきらぼうに歩みを急かす。大通りに出れば一先ずは安心だ。


その時

「危ねェ、っ!!」刹那の空気を切り裂く音と共にカレルは前に飛ばされた。顎を強かに打ち付けた瞬間、耳に飛び込んできたのは物凄い落下音と僅かな鈍い音。
顎の痛みに構わずに振り向くと、ベルが鉄骨の下敷きになっていた。

「ベル・・・・!」
「来るんじゃねぇ」

駆け寄ろうとするカレルをベルが制した瞬間、激しい落下音と共に再び鉄骨が落ちて来た。

げひゃひゃ

聞き覚えのある笑い声に見上げれば上からズラリと取り囲む形で、先程の男逹+αがカレルらを見下ろしている。

「せーっかく今迄可愛がってやったのによ」「恩を仇で返そうなんざちょづいてんじゃねえっての。」「死んじまえ。」「弱いクセしてよぉ。」

各々好き勝手に雑言を吐き捨てながらその場にある鉄骨やら煉瓦やらを二人目掛けて投げ落とす。
足場が骨組みだけの様子を見るとどうやらここは未完成の住宅街らしい。大通りまで後数メートルあるか無いか。

そんな事はどうでもいい、早くベルを助けなければ。

「がっ!」
投げ落とされた煉瓦の1つがベルの足を直撃した。

あちらこちらに積み上げられた建材を次々投げてくる中、ベルにのし掛かった鉄骨を必死に除けようと力を振り絞る。

「これでも喰らえ!」

そう言って一人の男が瓶を投げ二人の近くにパリン、と割れ落ちた瞬間、凄まじい速さで小さな火の海が現れた。

「!!!」

火炎瓶・・・・!
想像だにしなかった事態に二人の顔が驚愕に彩られる。
瓶より流れ出た液体の広がりを越えて成長する炎は、辺りの物を巻き込みながら徐々に迫って来た。



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