「う、ん……」
 彼の手の感触に気付いてだろうか、ユキナが小さく声を上げた。びくりとしてベルセルクが手を離すと、彼女は目を開き、幾度か瞬きを繰り返す。
「あ、……起きたんだ」
 彼女の第一声はこうだった。返答に困っているベルセルクを見上げ、ゆっくりとした動きで上体を持ち上げる。
「お腹減った」
 凡そ、この状況からかけ離れた言葉を口にすると、ユキナはにこり、と笑う。
「お前ェ、それどころじゃあ――!」
「今日はお魚がいいです」
「魚がいいってよ」
 ベルセルクの言葉を遮ったのは、ユキナだけではなかった。
 やるせなくなった彼がダァトの方を睨むと、素知らぬ顔で首元を掻く獣人がいた。
「オレは肉がいいけどな」
 ベルセルクは口を噤んで俯いた。ユキナに対する憤りも、申し訳ない気持ちも、口にする前に止められてしまった。
 彼は、どうしようもなく溜息を吐く。二対一じゃあ、勝ち目はないだろう。
「お前ェら、贅沢な事ばっかり言ってんじゃねぇよ」
 形に出来なかった事に対する諦めを、別の形にして呟く。仕方ない。彼らはベルセルクが感じている物を表に現して欲しくないようだし。
 ベッドから足を下ろし、恐る恐る立ち上がった。身体は軽い。何事もなかったように。
 彼は身体に付いた血を拭いて新しいシャツを着込んだ。そのまま何も言わず、部屋から出る。
「どこ行くんだよ」
 ダァトが問い掛けてくる。ベルセルクは玄関に向かい、僅かな苛立ちを乗せて答えた。
「買い出しだ。贅沢言われたからな。……家にあるモンじゃ足りねぇ」
 付いてくんな、と念押しして、彼はドアを開けた。
 魚は何がいいだろう。今の時間だと、まだ市に残っているだろうか。そうだ、身体に良い野菜も一緒に食べさせよう。嫌がられても、無理やり食わせてやる。
 そんな事を思いながら、彼は市場へと向かって歩き出した。



fin.

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