※※かみのけ いっそこのまま気を失えたらラクなのになあ、だなんてどこか傍観者ぶったことを頭の片隅で考えていた。 そっと自分の頬に指を滑らせる。最初生暖かかった それ はだんだんと頬と指の熱を奪い、だんだんと凝固し冷たくなっていく。 視覚と聴覚から入ってくる情報、その両方が心をざわつかせる要因となり、ひどく落ち着かない。 「…、」 視線を指から膝もとにおろしていく。 ぼやけた視界でも、白を基調とした研究室に それ は場違いなほどよく映えた。 「ちくしょう…オレのキバニアがこんなガキにぃ!!」 天気研究所を占拠していたアクア団の幹部と下っ端とのダブルバトル。下っ端を倒し、残りは幹部の手持ち一体のみ。 「強いわね、坊や…でも私たちも負けられないの…!!グラエナ!ラグラージに噛み砕く攻撃!!」 俺の手持ちも残り二体で体力は半分以下、薬も底をついた状態だったけれど、普通にバトルしていれば倒せる相手だ。 「坊やって年齢(とし)でもねーよ!避けろ凪沙ぁ!!」 凪沙は確かに飛び交って来たグラエナを避けた。いつもならここで反撃してバトルは終了、いつもと違ったのは 「は?」 立ち位置が悪くてグラエナの跳躍の延長線上に俺がいたこと。 突然の事態に体は反応することが出来ない。凪沙も避けた反動と驚きですぐに動けない。 目の前には鈍く光る鋭利な牙、全てがスローモーション、凪沙の悲鳴も聞こえない。 (もうだめだ、当たる…!!) 恐怖に思わず目を固く閉じる。 「伊剣!!」 ザクッ 「ぃっ…つ」 ーカシャンッ、 押されて倒れた衝撃で落ちた眼鏡の音が耳に響いた。 ガバッと起きて周りの様子や目の前に立つ人物を見る。ぼやけてはいるがこの人影は俺のよく知る人物だ。 「て、 照実…!」 お前が助けてくれたのかありがとうだとか、どうして人型にだとか言いたいことはたくさんあったがそれよりも気になることが多くて言葉に出来なかった。 パラパラと足元に落ちてくる朱い糸のようなものと、照実の薄黄の服にジワジワと染み出している赤黒い何か。 ドクン、ドクン、 「…てるみ…?」 照実は口元に笑みを作って(ぼやけてよく見えないけどそんな雰囲気で)俺の方を見た。 「悪いな伊剣…ちょっと、待ってろよ…」 ドクン、ドクン、 ぼやけていても分かる。 照実の左肩にはグラエナの牙が深々とくい込んでいた。 |