年長者二匹でだべりーの 「紅彦ってさぁ、空気だよね」 ばーん。効果音にすればこんな感じで問題発言を投下したのは暴君と呼ばれながらも仲間内では意外と常識人な、でもやっぱり暴君な基央だ。…どんなだ。 「…それは…俺の影が薄い、と…そういう…?」 「あー、そういう意味じゃなくて」 違う違うと首を横に振る基央。 紅彦は薄いどころか逆に濃いよという微妙なフォロー…フォローかこれ?を頂き会話は進む。 「うーん、なんて言えばいいの?」 「いや、それはこっちが聞きたいんだけど」 悩むように首を傾げた基央だったけど、考えるのが面倒になったのかすぐにまっすぐ俺の顔を見る。 「そう、空気なんだよ。…存在が」 どうやら考えるのが面倒になったんじゃなくて、考えがまとまったらしい。まとまった結果がこれとか。 「おい基央、ケンカ売ってんなら買うぞ?高値で」 「だーかーらーそういう意味じゃねーって言ってんだろ!」 殴られた。何だろうこの理不尽な感じ。 「じゃあもっとわかりやすくプリーズテルミー」 「…」 「放置されたボケほど悲しいものはないとあれほど…」 「ちょっといっぺん黙れ?」 「…おう」 仕切り直しとばかりに基央がため息をつく。なにこの話が進まないのは俺のせいみたいな雰囲気。否定できない。 「紅彦はさ、恭親にとって空気みたいなもんなんだよ。常に近くにいる…いなくちゃならない。いなくなったら恭親は絶対に困る…死にそうっていうか」 「…さすがにそれは…他の奴らもいるだろ?お前も含めてさ」 「それはそうなんだけど」 でも紅彦は別格でしょ? あたしも紅彦いなかったら死んじゃうもの 言いたいこと言ってスッキリしましたっていう顔の基央。この一方的な感じが所以か。何のって…そりゃあ、ねぇ? ていうか今サラッと流しちゃいけない発言があったような。だが騙されてはいけない。相手は基央だ。 「…」 「…」 「…メシ的な意味で?」 「…メシ的な意味で」 当然とばかりに頷かれた。そう、基央ってこういう奴なんだ。 「…でも、俺が空気だとしても、俺が一人で恭親を支えてるわけじゃないだろ」 「じゃあ細分化しよう。紅彦が酸素ね。で、二酸化炭素が私、窒素は拳志郎。他の奴らはプランクトン。うん、完璧」あっけらかんと言い放つ基央。意味はよく理解出来ないけど満足そうだし… 「もうそれでいいや」 笑って納得しといてやろう。 *** 紅彦の態度は毒だと常々思っている。少しずつ、少しずつ、じわじわ体を蝕んでいく毒。 最初は突っぱねるくせに、最後には絶対受け入れる。他の人はわからないけど、恭親もあたしも、少なからずそれが心地良くて無理を言う。本人も嬉しそうだから問題はない。 こうやって依存関係が出来上がっていくんだろうな。 "純粋な酸素"は生物にとって最も身近に存在する"毒"だ。 長時間かけて、じわじわと追い詰めて、呼吸困難。 …紅彦はきっと恭親とあたしにとっての"酸素"なんだ。 ないと生きられない。 ありすぎても、生きられない。 だから、 だからこそ、みんな集まってようやくバランスのとれたチームになる。 あたし達が初めて出逢った日からそれは変わらない。 たぶん、ずっと変わらない。 *** 恭親を中心に円満な感じのチームも実はほどよい均衡で成り立っている、的な。みんないるからこそ良い。そんな感じ。 恭親(自堕落)と基央(家事が壊滅的)は生活面とかで絶対紅彦に頼ってると思う。 ... |