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空を仰ぐカルディアは続けた。
「絶対になまえの前からいなくならない、そんな約束は出来ない。俺はこの心臓に火を点ける奴がいたら、全力で迎え撃つ」
「はい………」
「だけど、俺が隣にいる内は絶対に守る。それは黄金聖闘士だからとか、そんなものじゃない。俺はお前だから側にいたいと願う」
つらい時、悲しい時、誰でも孤独の中にいて。
自分は独りなんだと嘆く、
だけど違う。
周りを見渡せばいつだって誰かが支えてくれて、泣き止むまで側にいてくれる。
大切だから、また笑顔になって欲しいから。
その願いは自分だけのもの、ただ君だけの為に。
「絶対なんてこの世にはない、命が尽きればまたどこかで生まれて巡り会う。だから人は精一杯生きるんだろ」
「そうでしたね………カルディア」
「誰も見てないから、今日くらいは奴らを思って泣いてもいいんじゃねぇか?」
星空を指したカルディアに、なまえは穏やかに微笑んだ。
忘れないことも必要かもしれない。
悲しみ、嘆くこともあってもいい。
だけど、今を生きる自分に出来ることは自分の生を全うしていくこと。
目の前にいる者達を守り、精一杯戦って。
最後は笑って。
誰もそれ以上を望んでいない。
「泣きたきゃ泣け、笑いたかったら思い切り笑え。なまえにはそれが丁度いい」
「ありがとうございます、カルディア………」
なまえも再び空を仰ぎ、今まで出会った人たちが頭を過っていく。
みんな、笑っていた。
記憶の中でもずっと笑って、この胸の内で静かに生きている。
それだけで十分だった。
「もう大丈夫です、」
なまえはそう言うとカルディアから身体を離し、そのまま草の上に横になった。
この丘が好きな理由は星がよく見え、花や草木が綺麗に彩っているからだ。
いつもは座って星を眺めていたが、今日だけはこの瞳いっぱいにこの星空を写したくなった。
「汚れるぞ」
「構いませんよ、カルディアもどうですか?凄く綺麗ですよ!」
「ガキじゃねぇんだから……」
溜め息をついて呆れつつも、カルディアはなまえと同じく仰向けに草の上に身体を預けた。
確かに眼前に広がる景色は美しく、思わず言葉が出ない。
「なんだか、掴めそうですね。この星たち………」
「あぁ、」
本当に誰かの魂があの星たちに宿っている気がして、そう考えると先ほどより嬉しくなった。
ずっと見守り続けている。
嬉しそうに星を眺めるなまえに、カルディアは手を伸ばして、なまえの手を取った。
絶対とは言わない、ただ許す限り側にいたい。
そんな願いを込めて。
完
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