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神の力を宿したこの身体は、神には及ばないが間違った方向に使ってはいけないと、代々受け継がれる前に固く誓いをたてる。
聖域の為に、アテナの為に。世界が平和である為に。
100年以上も前にこの力を先代から受け継いだ時に、自分自身もそう誓いを立てて聖域を裏から支えてきた。
次第に人である生みの親や兄弟、友人たちも老いて星になる。
身体の成長が止まった自分は、力を宿した時と変わらない姿かたちをして。
この先も守られて生き続け、大切な人たちはどんどんといなくなる。
それは、もう耐えられないことだった。
「だからお前はバカなんだよ」
「っ、バカ、バカって………」
「仕方ないだろ、事実だ」
「確かに私は弱いです、アテナのような力もなくて、誰かに守られてばかりで…」
ハーデスがこの地上に再び現れて、どれだけの人たちが失われていったか。
皆を守りたい、だけどそれを100%実行するのは無理がある。
それでも守りたい、そう思うのは罪なのだろうか。
誰かが一つ、その命の火が消えていく度に胸が張り裂けそうな痛みが襲う。
一人が生を終え、また一人も終え。
周りを見渡すと誰もいない、今の黄金聖闘士もこの聖戦でどれだけの犠牲が出るか分からない。
守りたい、いなくなって欲しくない。
そう願う度に苦しくなる。
「私は、もう誰も………」
言葉を詰まらせたなまえは必死に耐え、苦しい表情でカルディアを見据えた。
――置いていかないで……
震える声がカルディアの耳朶にしっかりと届いた。
その瞬間、カルディアは腕を伸ばしてなまえの身体を引き寄せた。
「カルディア!?」
「うるせー、泣きたきゃ泣け。誰も見てない」
「離して、ください!」
「それは無理だ」
彼女の抵抗をきっぱりと切り、腕に込めた力を少しだけ強めた。
何故かカルディアの胸の中で静かに涙が溢れた、止まることを知らずにただ静かに流れる。
腕の中で静かに泣き続ける彼女に、カルディアはそっと告げた。
君の笑顔に、君の優しさに、君の温かさにどれだけ救われたか。
君は知らない。
守りたい、君の悲しみも涙も全て包み込んで。
君が笑ってくれるなら。
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