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「これって………」
「うん、なまえちゃんに見立ててそれぞれで選んだお花だよ!」
目の前には花束が三つ並び、立夏は更にせーのと合図をした。
「「「ママ、いつもありがとう!」」」
三人の思わぬ行動に言葉を忘れてしまう。
ありがとうとか言いたいことがいっぱいあるのに、
代わりにたくさんの涙が溢れてしまった。
「あー、パパがママ泣かした!」
「パパわるいこ………」
「えー!僕が悪いの!?」
母が泣いたのは父が悪いと、子供たちは責めてなまえの頭を撫でた。
「違うのよ、嬉しくて涙が出たの。ありがとう………冬華、冬哉、立夏」
「今日はね、僕が昔手術を受けた日なんだ。君と未来を生きたいって強く思った日なんだよ」
人間はいつか死ぬ。
ただ、神様の気紛れで人より早く死んでしまう己の運命。
別にいつ死んでもよかった。この世界に大事なものも執着するものもなかったから。
君に出会って、一緒に過ごして初めて死にたくないと思えた。
生きたい、出来るならこの先の未来も一緒にいることを夢見て。
「僕は今、凄く幸せ。なまえちゃんのお陰で僕は生きている。だから、なまえちゃんにありがとうって伝えたかった」
目を細めた立夏はなまえを引き寄せ、力強く抱き締めた。
胸の奥から熱いものが込み上がる。
あぁ、これを幸せと呼ぶのだろうか。
「パパずるい!ママぎゅって1人でやって!」
「ぼくも、ママぎゅってやる」
「あはははは、冬華も冬哉もおいで!」
二人をぎゅっと抱き締めると、二人は満足そうに笑った。
なまえも包み込むように抱き締め、互いの温もりが伝わるのを感じた。
「ずっと、ずーっと幸せでいようね。四人で」
「うん、今も幸せだけど、これからもたくさん幸せになろう!」
君がいなきゃ、今の幸せはない。
君が笑って、大切な宝物たちも笑って。
幸せで、幸せで仕方ない。
「今日は僕たちでご飯作るから、なまえちゃんはゆっくりしていいからね!」
「ママはおやすみ、わたしたちにまかせて!」
「まかせて、」
「ふふ、じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら」
立夏は子供たちに手を洗うように促すと、冬華と冬哉は洗面所に走っていく。
そんな二人を嬉しそうに眺めるなまえに、立夏はそっと唇を落とした。
「これからも、よろしくね。おじいちゃんになっても、なまえちゃんを幸せにするから」
「立夏………私もおばあちゃんになってもずっと側いたい」
君に出会って幸せだと、心から思える。
君と僕らの宝物が隣でずっと笑ってくれる。
当たり前のような幸せをくれたカミサマに僕は初めて"ありがとう"を言いたい。
完
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