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ほら、聞こえる。
小さな幸せの音が君の近くから。
そして、僕らの宝物からも。
幸せの音が溢れている―――
「どこ行ったの!冬華ー!」
午前7時10分。
リビングから朝食の美味しそうな香りが漂い、スーツに身を包んでいる青年は新聞を広げながら食パンにバターを塗った。
耳朶には今日も慌ただしいような声が聞こえ、青年はテーブルの真下に隠れている小さな影にそっと声を掛けた。
「ふーゆーか、早くしないとママ怒っちゃうよ?」
「もうおこってる、オニみたいに」
「オニみたいだって、なまえちゃん」
青年は楽しそうに笑いながら、先ほどから音を立てずに後ろに立っていた人物に話を振った。
小さな影は青年の言葉に身体をビクッと反応させ、恐る恐る後ろを振り返る。
「冬華、見付けたわよ」
「ほら、オニみたい!」
「ホントだー、なまえちゃん怖いー」
「パパも茶化さない!早く着替えなさい、冬華。幼稚園のバスが間に合わないでしょ!」
さすがにこれ以上は危険だと察知し、冬華と呼ばれる少女は渋々テーブルの下から出てきた。
「着替えたら早くご飯食べて、冬哉なんてとっくに食べ終わったんだから!」
「はいはい、」
「はいは一回!」
「はーい」
冬華は頬を膨らませながら椅子に座り、既に用意されている朝食に手を付けた。
「全く、誰に似たのかな………」
「顔はなまえちゃんだけど、性格は僕だね!」
「自慢にならないわよ、あ、時間だよ?立夏……」
なまえに指摘された立夏は壁に掛けられた時計を見やり、もうすぐ出なければならない時間になっていた。
慌ててスープを飲み干し、ごちそうさまと言って洗面台に走っていく。
なまえは小さく笑いながら立夏が食べたお皿を流しに持っていき、椅子に掛けてあるジャケットを持って玄関に向かった。
「ジャケット、忘れてるよ?」
「あー、ごめん!のんびりしすぎちゃった……」
靴を履いていた立夏にジャケットを広げて袖を通させ、少しだけ曲がっているネクタイを直した。
そんな様子を見ていた立夏は小さく笑った。
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