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俯かない、
どんなことがあったって決して俯かない。
俯いてしまえば、ここまで支えになった彼女を裏切って悲しませてしまうから。
だから、もう俯かないと決めた。
「久し、ぶり……ちょっと痩せた?ご飯ちゃんと食べてないでしょ」
「一応食べてるよ、ほら、温かいやつ買ってきたから」
公園のベンチに二人肩を並べて座り、歩が買ってきた飲み物を受け取った。
まだまだ冷える時季だったが、互いに話し合わないといけない気がして、連絡をようやく取って今に至る。
火澄と歩が暮らし出し、歩はなまえを自分から遠ざけた。
全ては彼女の為に、無関係な彼女をこの争いから遠ざけるにはそれしかなかったからだ。
久し振りにこうして肩を並べているが、それがなんとなく緊張してなまえは中々言葉が出て来なかった。
「火澄から聞いただろ、俺とあいつの身体のこととか」
「鳴海清隆のクローン、だってね。びっくりした……」
「あいつが言うには俺達は世界初の人間のクローンらしいからな」
何も返すことは出来なかったが、今の彼の瞳を見れば安心してしまった。
戦いを決意して挑むその力強い瞳、
今まで見たことのないその瞳に泣きそうになる。
彼は火澄と手を取ることもなく、
本当にその闇に進むことを決めた。
それがどうしようもない位に嬉しかったから。
「きっと火澄とあの時に手を取って、兄貴から全てを取り戻して、
残りの人生を穏やかに、望むままに生きていたかもしれない…」
「うん……」
「だけど、それをしたら俺は幸せにはなれない」
今まで奪われた分を取り戻して、同じ境涯の火澄と分かち合えて最期を穏やかに過ごす。
それは何より幸せなはずで、ずっとずっと望んできたものだったはず。
「それをしたら、なまえが悲しむ。それは俺が望むことでもなければ幸せでもない」
「歩、」
「なまえが側にいて笑っていることが、俺の本当の幸せなんだ……」
「っ、あゆ、む……」
この手を汚すのは簡単で、兄を簡単に奪ってしまうことも出来るだろう。
彼が望んでるのは自分の命を弟が奪うこと、
盤面から神は神にしか排除出来ない。
それでも出来ないのは、当たり前のように側で笑ってくれた君がいたからだった。
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