世界で一番のあなたへ
※バレンタイン用のお話になります!
本編31話後の設定になります、恋人になったという設定でお読み頂ければ!




























(なんで、なんでこの状況なの………)


狗崎なまえは目の前の状況が未だに飲み込めない。


ただ、目の前にある意地悪な微笑みがこの状況が夢でないことを証明している。












ーー遡ること数十分前。


2月14日というものは特別な日だと教わった。


好きな人にチョコレートを贈るのだと、野ばらに聞いたのは先日の話。


もちろん、贈る相手は考えなくても決まっていて。
レシピとにらめっこしながら手作りで作った。


しかし、問題はどうやって渡すかだった。


誰かにこうして贈るのは初めてのこと、
だから余計にどうして良いか分からなかった。


時間だかけが過ぎていく中で、結局正面から渡さないと失礼だと思い、意を決して正面から渡すことにしたのだ。


「はい、」


ドアの向こうからいつもの声が聞こえたが、
こういう場合はいつもよりとても緊張するものだと学んだ。


ドアがゆっくりと開かれ、その家の主は驚いたような表情だった。


「えっと…………こ、こんばんは、」

「なまえさま、どうかなさいました?」


SSの時とは違い、眼鏡姿の双熾。
いつもと違う雰囲気に心音が速くなる。


不思議そうに見つめる双熾に自分を奮い立たせ、
覚悟を再び決めて口を開いた。


「あ、あの!その…………」

「もしよろしければ部屋に入りませんか?」

「は、はい?」

「ここは寒いのでお身体に障ります。少し散らかっていますが、」


緊張のあまり、彼が何を言っているのかあまり分からなかったが、
とりあえず双熾の部屋に入ることになった。


(どの辺が散らかっているの………)


双熾の部屋は一度来たことがあったが、
相変わらず綺麗に片付いている。


本当は玄関先で渡そうと計画していた、
手には明らかにバレバレである手提げの紙袋を持っている。


(大丈夫かな?)


なにせ全てが初めてのことばかりで、
少しだけ不安に包まれていたのだ。


「ココアになります、」

「あり、がとう………ございます。」


双熾を訪ねて来たのは自分なのに、双熾にここまでさせてしまって申し訳ない気持ちだった。


ソファーに横に並んで座ると更に緊張が高まった。


「あの、ですね………実は双熾さんに渡したいものが……」

「はい、」


本人を目の前にして、考えていた言葉が真っ白になってしまう。


それでも、双熾にはちゃんと自分の想いで、自分の言葉で伝えたかった。


「ば、バレンタインということで、チョコを作りました。味は自信ないですけど、ちゃんと!ちゃんと、双熾さんを想って作りました!」


溢れだした想いは止まらず、一気に喋ってしまう。


その勢いのまま紙袋を目の前に差し出したが、
何も反応がなかった為、不安になりそっと顔を上げた。


「そ………双熾、さん?」


そっと名前を呼ぶと、双熾は手を口元に当てて顔を反らした。


その行動がよく分からず、双熾に顔を向けるとその反応に驚きを隠せなかった。


「本当に、本当にあなたは………」

「え?」


ポツリと呟くと、ようやくこちらに顔を向けてくれた。


その頬は少しだけだけ赤く染まっていたのだ。


「実はもう頂けないのかと、思っていましたので。本当にうれしいです。」

「待っていて、くれてたんですか?」

「図々しいとは思っていましたが、やはり少し気になってしまって………」


双熾の想いを聞いて、もっと早くに渡せばよかったと後悔してしまった。


どうやって渡すか色んなパターンを考えてみたり、
ラッピングも最後の最後まで悩んでいたり、


それで遅くなってしまったことを伝えると、双熾は小さく笑った。


「嬉しいです、なまえさまの想いが沢山込められたものを頂けて、本当に幸せです。」

「っ、お、大袈裟ですよ!」

「これは永久保存しますね。」


笑顔でサラッと言った為、一瞬理解出来ずにいたが、この笑顔は本気だ。


「ダメです!食べて下さい、」

「食べてしまったら無くなってしまいます……」

「売り物みたいに美味しいかは保証出来ませんけど、ちゃんと食べて下さい!」


一応、初めてのチョコだから少しでも口に入れて欲しい。


その想いを読み取ったのか、双熾は微笑んだ。


「分かりました、では、なまえさまが食べさせて下さい。」

「え、は、はい!?」


さりげなくとんでもないことを言ったような気がしたが、どうやらそれは本気らしい。


いつの間にか双熾と距離は近くなり、身体を持ち上げられ膝の上に乗せられてしまった。


正面から、しかも大分近い距離に戸惑いや恥ずかしさが一気に溢れる。


双熾はラッピングを丁寧にほどき、中からトリュフをひとつ取り出した。


それをなまえに渡すとニコニコと笑った。


「えっと…………本気、ですか?」

「はい、」


どうやらこのまま離してくれないらしく、
この状況に全身から熱を感じる。


恥ずかしくてどうしようも無かったが、
早く解放されたいと思い、諦めて双熾の口にチョコを入れることにした。


チョコを口に近付けると、双熾はそっと口を開きそのままトリュフを入れた。


これで解放されると思い手を離そうとした。
しかし、双熾は離れる手を掴み、指先に唇を落とした。


「そ、そ、そ、双熾さん!!」


そっと触れるだけだが、少しくすぐったいような。
先ほどより身体の熱が上がったように感じられた。


「指先にもチョコが付いていらしたので、」


ようやく離された腕、指先が熱くなってるような感覚に襲われる。


やはりいつもの笑みを浮かべる双熾に、
自分の心音は情けないほど速くなっていく。


「もう!双熾さんのバカ!」

「美味しかったです、今まで食べたどのチョコレートよりもずっとずっと。」

「っ、やっぱりズルい………」


膝から降りて、恥ずかしさのあまり背を向けたが、後ろから抱き締められてしまう。


「申し訳ありません、」

「怒ってる訳じゃなくて……恥ずかしい、です。」

「はい、知ってます。なまえさまに頂けるだけで幸せなのに、僕は欲張りでしたね。」

「でも、食べてもらえて良かったです………」


そっと耳元でお礼を言われた。


また作ってくださいと、


そして、また食べさせてくださいと。


それだけは考えものだったが、双熾と同じ気持ちで幸せを感じている。


「では、残りは永久保存します。」


そう呟いた双熾をなんとか説得して阻止したのは数時間後の話だった。













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