2

安心感を与える者は誰もいない。


先祖返りというだけで腫れ物に触るかのように遠慮がちに近寄られ、
財産目的で近付く者も少なくはない。


(でも、御狐神さんは違う……)


彼の掛けてくれる言葉一つ一つが嬉しくて、本当に安心感を与えてくれる。




――大丈夫、貴女を翔ばしますから。


あの空を翔る鳥のように……





「なまえさま?」

「あ……、すみません、ぼーっとしてて…」

「これを飲んで落ち着いたら、お部屋までお送りします。」


鼻孔をくすぐる紅茶の良い香りに我に返り、なまえは淹れたての紅茶を見つめた。


「御狐神さんの紅茶って、本当に美味しいですよね。」

「ありがとうございます。なまえさまの喜ぶお顔を思い浮かべながら淹れてます、紅茶も幸せですね。なまえさまを笑顔にさせているのですから。」


嘘偽りのない言葉。


本当に心からの想いを伝えてくれる。


それが本当に嬉しかった。


「最近、夢を見ます……」

「夢、ですか?」


カップに入っていた紅茶を飲みながら、なまえは双熾に話し出した。


「私自身が空を翔る鳥のような、そんな素敵な夢なんです。」

「……それは、本当に素敵な夢ですね。」

「だけど、いつも決まった所で目が覚めます。
誰かが空を翔る私を見て微笑んでいて、」


顔を見たいのに、いつもそこで目が覚めてしまう。


最近はその夢をよく見るようになったのだ。



「素敵な夢です、とてもなまえさまらしい夢ですね。」

「ありがとうございます、でもどうして空を飛ぶ夢なんでしょうか……」

「さぁ、それはなまえさまがきっと………」

「…………」


双熾が話を続けようとしたが、反応がなくなってしまったなまえを見た。


すると彼女は空のカップを手にしたまま、目をゆっくり閉じたり開けたりしていた。


「なまえさま、危ないのでカップを取りますね。」

「ごめん、なさい……私…」

「今日は色々あってお疲れでしょう、このままお部屋に連れて行きます。」


まどろんだ意識の中で、双熾が軽々と横抱きにして部屋に連れて行ってくれたのを最後になまえの意識は途絶えた。


予備の鍵でなまえの部屋に入り、双熾はゆっくりとなまえをベッドに降ろした。


「寝顔が可愛らしいですね、」


完全に眠りについたなまえの頭を優しく撫で、双熾は小さく笑った。




『どうして空を飛ぶ夢なんでしょうか、』




(それは……)


双熾は立ち上がり、なまえの部屋の電気を消して彼女の部屋を後にした。


「それは、空を飛びたいと願ったあなたの気持ちだからですよ……」


大切に閉まっていた記憶が、少しずつ蓋を開けて蘇る。


だけど、それを開けるのはまだ少し先の話だった……





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