白銀の世界に誘われて



「あ、どうりで寒いと思ったらやっぱり降ってますね。」


灰色の空を見上げ、白い花がヒラヒラと舞う姿を確認した。


天気予報ではこの時間に降るとあった為、傘を持ってきて正解だと呑気に考えていた。


「寒いのはちょっと大変ですけど、中々風情があって綺麗ですね。」

「雪よりなまえさまの美しさの方が僕は……」

「いえ、これ以上大丈夫です。」


双熾の長くなりそうないつもの話をスパッと切り、
本格的に降る前に早く帰りたいと思った。


近所で買い物をしたとはいえ、足元が滑るであろうからゆっくり帰ることにしたのだ。


「足元にお気を付けてください。」

「はい、っ、きゃ!」


双熾の注意を受けた直後に滑ってしまったが、
どこも痛くない代わりに後ろには柔らかい感触があった。


「大丈夫ですか!?」

「っ、だ、大丈夫………です、なんとか。」


転ぶ寸前に後ろにいた双熾が体を支えたおかげでどこも怪我をすることがなかった。


双熾に支えられて体を起こすと、双熾に正面から抱き締められたのだ。


「そ、そ、双熾さん!」

「本気で驚きました。なまえさまが転んでどこか打ってしまわれたら……」

「あ………」


抱き締められた腕から微かに震えていることが分かる。


(そうだ………)


双熾は過去と重ねていた。
あの日も雪で、初めて見る雪に足元を取られて今のように倒れて……


そして記憶がなくなってしまって、知らない間に誰かを傷付けていたんだ。


確かにそこにずっとあったもの、私はその全てを忘れて。


(ずっと、抱えていたんだよね………)


暫くすると、双熾の方から深い溜め息が聞こえた。


「申し訳ありません。」

「双熾さんが謝ることじゃないです、私がちゃんと注意して歩いてなかったことが原因です。」

「ですが………」


体をそっと離し、双熾の顔を正面から見つめた。


辛そうに顔を歪ませ、今にも泣きそうな双熾にたくさんの申し訳なさを感じる。


「もう絶対に双熾さんを忘れたりしません。一人にしません。だから、安心してください……」


双熾の手をそっと取り、両手で包み込んだ。


一人で全てを抱えて守ってくれた。
そんな彼に自分が出来ることは、きっとこの先もずっと側にいること。


安心して欲しい、そんな祈りを込めた。


「ありがとうございます……大好きです。」

「っ、だ、だから、そういうことをサラッと……」


すっかりいつもの調子に戻った双熾に笑みを溢し、そろそろ帰ろうとした。


双熾を包んでいた手をほどこうとしたが、逆にぎゅっと握られてしまった。


「また転ぶと危ないので、このまま繋いで帰りましょう。」

「え!?それは………」

「では、参りましょう。」


反論しようにも、にっこりと笑顔で返す双熾に何も言えなくなった。


そんな双熾を見つめ、自然に笑みが出てきた。


外は寒くても、繋いだ手は温かく、心まで満たされていく。


この先もずっとこの手を離さない、



もう一度、力強く誓って歩き出した。










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