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「っ、」


意識が朦朧とする。


目の前にいる人たちの顔がだんだんぼやけて見え、なんとかそれを気力で振り払った。


止めないと、



「そ………し、さん…だめ……」

「なまえさま、喋らないでください。血が……」


なまえの声に双熾は側に近寄り、膝を折った。


「ごめんなさい………僕は、あなたの側にいる資格がないです。また守れなかった」


あの日の後悔は二度と味わいたくない。


彼女を傷付けるものから真っ先に守りたくて、


自分と出会ったことが彼女の記憶から無くなったと、なまえの側にいつもいたあの年配の執事に聞かされた。


妹の唯は突然、親戚がいる海外に行ったと言われて、家庭教師の自分は狗崎にいる理由がなくなってしまった。


屋敷にいたものは皆、なんらかの術で眠らされていた。


年配の執事はたまたま1人屋敷の離れにいた為その被害を免れ、屋敷に戻ると彼女の部屋がもぬけの殻だったことに気付き、1人で探しにいく。


二人を発見した時、血を流している双子の姉と側で微笑む妹がいた。


病院に運ばれた彼女は命に別状はないが、意識が何日も戻らない。


ある日、ようやく意識が戻った彼女に何が起きたのか尋ねると彼女は不思議そうに首を傾げた。


『私は、どうしてここにいるの?』


頭を打った衝撃と実の妹に刺されたというショックから、その前後の記憶がなくなっていたのだ。


『御狐神双熾さん、あなたのことをなまえ様は覚えていません。唯様も日本におりません、なのでもう家庭教師は結構ですよ』


悲しそうにそう告げる彼の表情が忘れられない。


『あと、少しでした。でも、必ずあの方をあのマンションへ入れます。今まで縛られていた分、少しでも普通の生活に帰ってもらいたい。それは変わりません』


そして、約束をした。


もし、妖館に住めることになったら。


彼女を守って欲しい。
他ではない、僕に守って欲しいと彼は頭を下げた。


狗崎家を守る為に今までなまえには厳しくしたが、彼女の為にそれはならないと気付いてしまった。

だから、せめて誰かが彼女を幸せにして欲しいと密かに願っていた………



もし、この先の未来で全てを思い出す時が来るかもしれない、


あるいは、なにも思い出さずに次に会うときは他人なのかもしれない。





それでも彼女が二度と傷付くことがないように守り抜くと誓おう。




全てを賭けて。



そして僕は彼女と二度目の別れを告げたのだ。







続く
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