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痛いのは、心。
決して満たされることがない。
痛くて、苦しくて。
どうしようもないくらいに、張り裂けそうだった。
ただ、誰かに愛されたかった………
私という、個人を見て欲しかっただけなの。
「っ、」
ジワリと迫り来る鈍い痛みに顔を歪めた。
ゆっくりと離れていく手は、真っ赤な色。
そうだ、あの真っ白な世界に倒れた時も彼女の両手は紅だった。
「なん………で」
唯が突き刺したナイフを避けることもせず、真っ直ぐなまえのお腹から離れた場所に刺さっていた。
ポタポタと紅い雫が滴り、唯は握っていたナイフを離した。
ナイフはカランと音を立てて床に落ち、唯はキッと力強くなまえを睨んだ。
それと同時にドアが力強く開き、なまえは沈みそうな意識を起こしてそこを見据えると妖館に住まう仲間たちがいた。
そういえばもう夕方過ぎで、みんな帰って来たんだなと呑気なことを考えてしまった。
「なまえちゃん!唯ちゃんもいないから皆で探したのよ!それをこんな……」
「っ、おい!しっかりしろ!!」
「いまお医者さん呼んでるから、でも間に合わなくてごめんね……」
「野ばらさ……わた、ぬ……く……夏…」
「ばかっ!喋るな!」
野ばらは立っていたなまえを支え、ゆっくりと床に座らせ、渡狸は近くにあったタオルで傷口を押さえた。
連勝もカルタも見え、なまえはホッと一息ついたが呼吸が少しずつ乱れていく。
刺された場所が焼けるように熱い、いくら妖怪の血が流れてるとはいえ、刺さればやはり痛い。
「なまえ、さま………」
ふと名前を呼ばれ、その方向を見つめるとずっと会いたかった人物が立っていた。
「みけ………そう……し、さん…」
心配掛けたくなかったのに、それに今のこの状況を彼には一番見られたくなかった。
なまえは双熾に向かってふと微笑んだ。
「っ、」
今にも泣きそうな、だけど次の瞬間にはいつも穏やかな表情が一変した。
「あの時僕が言ったこと、覚えていますか?」
双熾は静かに唯に向かって言葉を放った。
唯の身体は一瞬ビクッと揺れ、双熾の静かな迫力に呼吸を忘れそうになりそうなくらいだ。
ダメだ、
彼女は普通の人間、少しずつ膨れ上がる妖気がいつしか彼女に向くだろう。
それだけは避けなければならなかった。
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