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頭が痛くてたまらない。
だけど、目の前の現実から目を背けちゃいけないと、脳が警告する。
辛くて、悲しくて。
涙が、知らない内に溢れていた。
「っ………」
「"忘れていたこと"ちゃんと思い出した?」
「………」
「倒れた時の衝撃と、私に刺されたことによるショックであの時から少し前の記憶がなくなったんだよね?主治医から聞いたのよ」
"忘れていたこと"
それは、痛くて苦しかった記憶。
目が覚めたら頭に傷を負っていたことがある、誰に聞いても転んだだけだとしか言わなかった。
その真実がこのことだった。
ずっと引っ掛かっていた、あの辺りの記憶が欠けていたこと。
妹の唯には一度だけ会っていたこと。
なにより、
大切だった、御狐神双熾の記憶を失ってしまった。
私は、あの人にずっと前から会っていたんだ………
「なまえちゃんのお陰で私の人生メチャクチャ………みんな、なまえちゃんしか見てない。私を見る目はみんな……」
"かわいそう"
姉は先祖返りで大事に大事にされている。
華道の才能もあって、勉強も出来て。
だけど、双子の妹は人間で。
姉には全てにおいて敵わない。
親戚はみんな決まって、かわいそうと言う。
「海外に行ったのは、あんなことを二度と起こさない為にあの二人が手配したの。私の意思で海外に行ったわけじゃない」
「そん、な………」
「だから言ったでしょ、なまえちゃんは愛されてるって」
妹から聞かされたのは、あまりにも衝撃的な事実だった。
長らく妹に会えないのはただ単に会わせてもらえないからじゃない。
先祖返りという異質の存在が、普通に暮らしてる妹に害がないように避けられているとずっと思っていた。
だけど、真実はその逆。
先祖返りが死なないように、あのような真似を二度と起こさないように、唯を遠くへ払ったのだった。
それと引っ掛かることがあった。
「ねぇ、唯は………どうやってあの中に入ったの?」
「…………」
「あそこは結界があって簡単に入れない、なのにどうして……」
「そうね、私は術とか使えない人間だから入るのは無理ね」
そう呟いた瞬間、唯は目を伏せた。
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