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咄嗟に避けようとしたが、積もった雪に足を取られ態勢が崩れてしまった。


「っ、」


雪の上に仰向けに倒れると、その上を馬乗りになって唯が覆い被さった。


頭の下には何か固いものがあった。


雪の下に隠れていた大きめの石の上に倒れたようで、頭の後ろに酷い痛みが走る。


痛みを堪えながらなまえは下から見上げる妹の顔に胸が苦しくなった。


瞳は憎しみに満ちて、だけどどこか哀しそうな瞳をしている。


「なまえちゃんが死んだら、あの二人もあの人も私を見てくれる、だから………」

「あの、人……?」

「………あの人は私に優しく笑ってくれた、私だけ見てくれた。でも、何回かなまえちゃんの名前を呼ぶのよ。私が目の前にいるのに……」


唯が先ほどから言う、あの人というのが誰を指しているか分からなかった。


「私も、あの人と同じ先祖返りだったら、私を見てくれたかな………?」

「………先祖、返り」

「御狐神双熾さん、なまえちゃんの家庭教師だった、でも今は私を見ているの」


唯の言葉に驚きを隠せなかった。


姿を見なくなった双熾が、まさか妹の家庭教師をしていたことを初めて知る。


「お父さんもお母さんも、双熾さんまでなまえちゃんを見ている。私を見る人は誰も………」


泣いているかと思った。


だけど、彼女の瞳から涙は流れていない。


ズキッと鈍い痛みが走り、徐々に雪によって体温が奪われていくのを感じた。


それに視界が少しずつぼやけ始めた。


「さよなら、もう………終わりにしよう」


唯の掠れたような声がやけに耳に響く。


目の前で自分に向かって降り注がれたナイフ。


スローモーションのようにゆっくりと見え、そこから視界は暗く閉ざされた。















「なまえさま!」














どこからか、声が聞こえた。



ずっと聞きたかった心地良い声。



そうだ、私はあの声に名前を呼ばれることが嫌いじゃなかった。


狗崎だからとかではない、私という個人を見てくれる。


名前を呼ばれる幸せを覚えてしまった。


私は、あの人が………



御狐神双熾さんが、好きなんだ―――




そして、ごめんね、唯。



私が生まれたばかりに、あなたを悲しませて壊してしまった。



さよなら、この世界から私は消えるね………




誰も、悲しませたくないから……







続く
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