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眼前に広がる、新しい世界。
あの小さな世界とは比べ物にならないほど、広くて美しい。
私は一面に広がる白銀の世界を見渡し、満天の星空の下に輝く雪をそっと触った。
「つめ、たい………」
「キレイだね、なまえちゃん」
「うん………」
夜の静寂な空気、夜空に浮かぶ月に照らされた雪はキラキラと反射している。
これが、雪。
双熾さんがいる世界は、こんなにも美しい。
(なんだか、変………ずっと、双熾さんのこと考えて…)
彼がいなくなり、彼のことを考える時間が増えた。
日増しに会いたいという気持ちが強くなっていく。
初めての気持ちにどうしていいか分からなくなっていたのだ。
「そういえば、私たちはじめましてだよね?」
「そうだね」
「双子の姉妹なのにはじめましてって変だよね……」
「ううん、私はずっとなまえちゃんのこと知っていたよ」
なまえを真っ直ぐ見据えた唯がにっこり笑う。
外へ出ることに夢中になっていて気付かなかった。
彼女は、とても憎しみに満ちた瞳をしていたことに。
「物心着いた時から知ってた、私には双子の姉がいること。その姉が先祖返りで軟禁されてることも」
「唯………?」
「一族もお父さんもお母さんも、使用人もみーんななまえちゃんが大事なんだよ、知ってた?」
小さく笑う唯に、不思議と恐怖が出てきた。
「愛されているんだよ、なまえちゃんは」
「あ……愛されている、?」
「そう、あなたは愛されているのよ。あの人からも………」
愛。
そんなもの、この狗崎の家には存在しない言葉。
私を愛して、私を一人の人間として見て。
名誉も富も関係なく、私という存在を見てくれるものは誰もいない。
まして、両親はもってのほかだ。
なまえには唯の言葉が信じられなかった。
愛されているのは、
人間として生まれた彼女のはず――
「嘘よ………あの人たちも、あの家は、私を愛していない……」
「嘘じゃないわ、あの二人はなまえちゃんが大事で……」
両親に会うことさえままならない。
実の親に軟禁され、ずっとあの中で飼われていた。
そんな両親が愛しているなんて、あり得ないこと。
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