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あれから、季節は移り変わった。
相変わらず双熾の姿を見ることはなく、何度も家庭教師は代わっていく。
勉強はただの暇潰し、増える知識のお陰で大学レベルまで勉強が進んでいった。
だけど、家庭教師がそれに合わせて代わっていってもやはり彼の姿を見ることは叶わない。
分かってはいても、会いたいと思ってしまう。
本当はちゃんと約束を果たすまで会えないとか分かってるのに。
「はぁ………」
季節は冬。
彼に出会った時はまだ暖かい春だった、季節が巡るのは早いものだった。
「課題は終了、あとは………本を読もうかな」
欲しいものは使用人が用意する、本が欲しいといえば大量に用意される。
先ほど、使用人から届けられた大量の本に目を向けると、読みたかった本を見付けて手を伸ばした。
(前に双熾さんがオススメって言ってた作家さんの作品だ、中々手に入らないって言ってたのに、さすが狗崎の権力)
オススメだと言われた作家の作品は全て読み尽くした。
参考書しか読まなかった自分にとって、彼が教えてくれた本は新鮮で夢中になってしまう。
今みたいに眠ることを忘れて、深夜まで読むこともしばしば。
勉強の知識のみならず、物語を通して外の世界を知ることが出来る。
私は、彼に出会ってから以前より外の世界に酷く憧れを抱いた。
もし外の世界に行けたら、彼に会うことが出来るのだろうか。
空の下はどんな景色なのか、最近はそういうことまで気になってしまう。
「寒いのかな、外は」
窓から見える白い世界。
あれは雪というらしく、冷たいものだと何かの本に書いてあった。
結界の中は外の世界の暑さや寒さを感じない。いつだって同じ様な温度を保っている。
私は、雪の冷たさなど知らない。
「ふわふわしてそう、触ってみたいな………」
毎年見ている雪を初めて触りたいと思った。この手で触れて冷たさを感じたいと。
今まで感じたことがない想いがどんどん溢れる。
こんな鳥籠を飛び出して、今すぐでもあの世界へ―――
「双熾さん………」
あなたは、今どこにいますか。
私と同じ景色を見ているのでしょうか、
私は、あなたに会いたい………
「!?」
結界が解かれた。
今は深夜、いつもは絶対に使用人たちが来ない時間帯。
この時間に誰かが来ることはないはず、それに何も聞いていない。
足音は部屋の前で止まり、ゆっくりとドアが開いた。
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