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本当は、あの空の下を当たり前のように歩きたくて。


鳥のように羽ばたけたらって、そんな大きな夢は抱かない。


この小さな願いを神様に叶えて欲しいだけ。


私は、この瞳いっぱいに蒼い海を映したい。


「前に僕はあなたを空に翔ばすって、あれは本当です。僕の嘘偽りない本当の気持ちです」


彼は言った。


自由を望む私に、あの空へ翔ばす。そして、一緒に空の下を歩くのだと。


ずっと、ずっと胸の奥で鮮やかに残っている。


「約束します、今は離れていても僕はこのドアを開けて、あなたを空の下へ連れて行きます」

「本当、ですか?信じていいですか………?」


恐る恐る尋ねるなまえに双熾は優しく返した。


「信じてください、必ず、必ず僕が連れて行きます」


誰かの為にと約束したことなどない。


互いの利益が間にあることしか信じないし、約束というより契約みたいなもの。


でも、今は心から思う。


この小さな願いを叶えてあげたい、この手で必ず実現させて。


そして、彼女の本当の笑顔を見たい。


幸せに充ち溢れた笑顔を。



「だから、今は少しお別れです」

「はい、私ももっと強くなります」

「なまえさまが強くなってしまったら、僕の出番ないですよ?」


ドア越しに小さな笑い声が聞こえる。


この瞬間、なによりも幸せに溢れている。
この気持ちをなんと呼ぶのかは、まだ分からないけど。


確かに、温かくて、くすぐったい気持ちが溢れている。


「………そろそろ、行きますね」


双熾は手元の時計を見やる。
それは時間切れになるギリギリの時間になっていたことに気付く。


どうしようもなく胸が痛む。
名残惜しいがこれだけは守らないといけないもの。


でないと、彼女が本当に自由を手にすることが出来なくなるからだ。


「僕は、あなたの幸せを願っています」

「ありがとう、双熾さん。私も双熾さんの笑顔と幸せを願ってます」


互いに手を伸ばし、ドアに手を触れた。


間にあるのはドアのはずなのに、そこになんとなく向こう側にいる人の温もりがあるような気がして。


長いような、でも実際は短い沈黙の後に足音が遠ざかる音が聞こえる。


そのまま崩れるようにしゃがみこむと、一気に頬に涙が伝った。


今まで感じたことがない痛みが胸の奥から溢れる。
苦しくて、苦しくて。


初めて、声を上げて泣いた。


別れがこんなに辛いとは思わなかった。
初めての感情にどうしようもなく辛くて、


それでも、頭を過るのは二人だけの約束。


あの空の下を歩いてくれると言った、


苦しくても、私はその約束を果たす為にこれから前に歩かなきゃならない。


その想いに応えたいから。


不思議と、生きていける気がした。









続く
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