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しんと静まり返った部屋。
なにをするわけでもなく、ただベッドに寝っ転がっている。
考えることはあの人のことで、なにも言わずにそのまま別れてしまうとは。
世界は広いと聞くけど、私の世界はいつだってこの箱の中。
今だって、あの人に会いたいのに会えない。
苦しい、こんな気持ちは初めてだった。
「双熾さん………」
会いたい。
もっと話がしたい。
あの人が見ている世界を知りたい。
でも、今は話をしなくても、外の世界を聞けなくてもいい。
ただ、その姿を一目でいいから見たい。
コンコン、
少し控え目な、ドアをノックする緒とが聞こえる。
こんな時間に誰が来るのだろう。
いつも夜になるとほとんど誰も出入りしないのに。
「はい」
「…………なまえさま、夜分遅くに申し訳ありません」
少し間が空いてから、ドアの向こうから声がした。
まさかとは思った。
会いたいあまりに声まで聞こえてきたのかと思ったけど、どうやら本人のようだ。
「双熾さん?どうして………いま開けて……」
「ドアは開けてはいけません。どうかそのままで」
ドアを開けようとすると、双熾にやんわりと止められた。
なぜ、そんな疑問を口にしたかった。
「双熾さん………」
「突然、家庭教師を辞める形になって申し訳ありません。それを伝えたくてここに来ました」
「そんなこと、いいんです!私はただ、双熾さんが側にいれば……」
ドア越しに精一杯の想いを伝えた。
この想いに嘘はない。
でも、なんで自分からこんな言葉が出たのかは不思議で。
この胸の奥に隠れていた気持ちがどういうものか、今になって気付いた。
「私、双熾さんに出会えて幸せです。それに嘘はないです………」
「なまえさま」
「苦しかったんです、双熾さんに会えない間、ずっと」
「これ以上は………ダメです、お願いですから、それは閉まってください」
たった一枚の壁が越えられない、きっと彼がなにを言いたいのか分かっている。
ぎゅっと手を握った、じゃないと胸が張り裂けそうなほど痛い。
その痛さも全部捨てたかったのに、それは出来なかった。
この想いを、無かったことになんて出来ないから。
「なまえさま、少しだけ僕の話を聞いていただけますか?」
「………はい」
「ありがとうございます」
ようやく、笑ったような気配がして、少しだけ安心感を覚えた。
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