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それを言い渡されたのはついさきほどだった。





『御狐神双熾さん、貴方は昨日付でなまえ様の家庭教師を辞めて頂きます』

『どういうことでしょうか?』

『言葉の通りです、ですが貴方をここに招いた主人と、そちらの主人の顔が立たない。ですから本日よりなまえ様の妹君、唯様の家庭教師となって頂きます』


一瞬、彼がなにを言っているのか理解出来なかった。


ただ、事務的に淡々と伝える彼の言葉が耳から入って反対の耳から流れていくだけだ。


『一体、どういうことでしょうか』

『いくら貴方が先祖返りとはいえ、今は家庭教師。こちらの規定に従ってもらいます』

『っ、』


先祖返りとはいえ、ただの家庭教師にしかすぎない。


この家のやり方に不満を唱えることは出来なかった。


『…………貴方は、近付き過ぎた。そして外の世界を教えてしまった』

『見ていらしたんですね』

『あの部屋を二十四時間監視し、あの方に害があるものは全て排除しなければならない。ましてや外の世界を教えるなんて』

『なまえ様の自由は……』


彼女は、誰よりも自由を望んでいた。


だけど、先祖返りである自分の運命を受け入れて、狗崎に縛られることを選んだ。


まだ小さな彼女は、あの蒼い海を知らない。


広い空の下を歩きたい、そんな小さな願いさえ叶えることが出来ない。


『全て、狗崎の為。あの方のお陰で狗崎は繁栄をもたらしている』

『そんなこと、許されるとでも……』

『貴方も同じだったはず、だからあの方に同情をしていたのでしょう』


違う、違う。


彼女は同じなんかじゃない。


僕に、あんな純粋な願いなんてなかった。


僕は、彼女みたいに運命を受け入れて生きる強さはない。


彼女は僕と違う………










「あの、双熾さん?」

「………ああ、失礼しました。唯様。続けましょう」


顔も声も似ている二人。


だけど、僕は彼女の強い瞳も哀しみを帯びた涙も忘れはしない。


僕は、知らない間に彼女のことが頭から離れられなくなっていた。



『お金は今まで通りお支払いします、鬼と繋がるには貴方は必要ですから』

『…………』

『今後、なまえ様とお会いすることを禁じます。では、唯様のお部屋へご案内致します』


利害は一致していた。


僕はお金、
狗崎は鬼との繋がり。


その間にいるなまえ様は、今どんな気持ちでいるのだろうか。


でも、彼女を騙していたことには変わりはない。


金の為とはいえ、僕は彼女を騙した。


お金の為にあの人に近付いて、それでおわったはずなのに。


どうして、胸が痛いのだろう……………










続く
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