3
彼女に、自らの過ちを打ち明けたら。
どんな顔をするだろう。
言えないのは、彼女に軽蔑されることを無意識に恐れていたからだ。
弱いのは、僕自身だった。
「双熾さん、話してくれてありがとうございます。少しだけ双熾さんを知れて嬉しかった」
「嬉しい、ですか?」
「双熾さんとどこか壁があったので、少しずつそれが無くなって嬉しかったんです。不謹慎でごめんなさい」
そう言ってなまえは小さく笑った。
胸の奥がまた痛む。
この笑顔を見る度に、苦しくて仕方がない。
「なまえ様は前に僕に出会えて幸せだと言いましたよね?」
「はい、言いました」
「僕も、なまえ様に出会えて幸せです。初めてです、こんなにも幸せな気持ちになるのは」
この気持ちに嘘はない。
今まで作ってきた偽物の気持ちはない。
女はそうやって言えば、簡単に本気にして嬉しそうに笑う。
それを分かっているから、何十、何百と騙しながら自身の自由の為に言ってきた。
でも、今は違う。
この気持ちを言葉にしてみたら、自然に言葉が溢れてきた。
これが、幸せなのか。
くすぐったいような、だけど温かい気持ちにさせてくれる。
初めて味わう感覚にどうしていいか分からない。
それでも、素直な気持ちを言葉にすることは全く悪いことではないと知った。
何故なら、彼女は恥ずかしそうに俯いた後、とびきりの笑顔を向けるのだから………
「私たちは、いつか先祖返りとか関係なく、幸せに生きていけるのでしょうか、私は自由に空の下を歩きたい…」
生まれてから一度も自由を手にしたことがない。
誰もが当たり前のように空の下を歩くことさえ出来ない。
叶うなら、いつか何にも縛られずに自由に歩きたい。それは周りから見ればとても小さな願いかもしれない。
それでも、自由になりたかった。
「僕が、いつかあなたを翔ばします。あの眩しい空の下を………一緒に歩きましょう」
「双熾さん……」
空の下を自由に歩きたいという願いは、この瞬間に一人ではなく二人のものになった。
こんな風に笑い合って夢を語る日々はもうじき終わりを告げる。
既に黒い陰が覆っていることに、まだ二人は気付いていなかった。
続く
.
[
back]