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ふわり、ふわり。
風に乗せて、私を運んでいく。
この想いも、全部、ぜんぶ……
「失礼します。なまえ様」
家庭教師になってから数ヶ月、また時が流れた。
季節は春から夏へ移り変わる。
相変わらずなまえは外に出ることはなく、双熾の話を聞いて知識をつけ、
少しずつ二人の距離は近くなっていき、二人の間にはいつしか笑顔が増えていた。
「なまえ、様?」
部屋に入るなり、#なまえは窓を見つめてシャボン玉を吹いていた。
鉄格子で覆われた窓は、酷く冷たく見える。
シャボン玉は開いた窓から空へと飛んでいく。
吹いては飛んでいく姿を見つめ、また吹いて、と暫く繰り返していた。
後ろ姿が小さく見え、もう一度声を掛けた。
すると、ようやく気付いたのか、なまえはゆっくりと双熾の方を振り返る。
しかし、そこにはいつもの笑顔がない。無機質な瞳がそこにはあった。
そして、白い肌の色をした頬は赤く染まっていたのだ。
「なまえ様、どうなさいましたか!?」
慌てて彼女の側に駆け寄った双熾は、なまえの頬に手を伸ばした。
「一体、なにが………」
「20回………」
「え?」
「私が死に損ねた回数」
淡々と話す目の前の少女に、さすがの双熾も驚きを隠せない。
いつもの柔らかい表情も、眩しい笑顔も、きらきら輝く瞳もそこに一切なかった。
「先祖達から継がれた術を使って死のうって思ってるのに、みんな必死に止めて。知ってますか、ここに監視カメラがある理由」
先日、双熾はある男に言われた言葉が甦る。
この部屋には監視カメラがある、その理由を双熾は知らなかった。ただ、逃げないように見張っているものだと思っていたからだ。
「死なせない為ですよ、だって私が死んだら狗崎がなくなるから。だから一族みんなは必死。笑っちゃう」
「なまえ様」
「所詮、この家の道具。だったら死んでも構わな……」
「なまえ様!」
一際大きな声になまえは肩を震わせ、下を俯く。
大きな声を出すつもりがなかった双熾は、自分でなぜ彼女を止めるような真似をしたのか理解出来なかった。
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