2
「あなたは、強いですね。本当に眩しいくらい………」
「双熾、さん?」
今まで見たことのない複雑な笑みに、なまえは少しだけ戸惑った。
そんななまえの表情を見た双熾はいつものように、笑うのだ。
「どうか、あなたはそのままでいてください」
双熾はなまえの手をそっと包む。
ひやりとした手の冷たさ、彼は一体いまどんな気持ちなのか。
双熾の手に自分の手を重ね、包み込むようにぎゅっと握り締めた。
「どうか、汚れることなく、純粋なあなたのままで………」
双熾の呟きは部屋の静寂な空気に溶けてきえた。
暫くの間、二人はそのまま立ち尽くしていた。
「相変わらず心にもないことを言うんだな、貴様は」
「見ていらしたんですね、随分なご趣味で」
「いいぞ、その反抗的な眼。直接見ていたんじゃない、監視カメラで見たんだ」
「あなたも、相変わらずですね」
あの小さな鳥籠に閉じ込められて、彼女は一度たりとも愚痴を言わない。
そんな彼女に意地悪な質問をしてみても、彼女は言わない。
それどころか自分に出会えて幸せだと。
そんな言葉は勿体ない。
眩しすぎるほどの言葉を受け取る資格はないし、そんな彼女に胸が何故か痛む。
僕は、あなたが思うような人間ではない。
「さっき、狗崎の執事から渡された。今回の報酬だそうだ」
「ありがとうございます」
彼のお側にいるだけで充分すぎるものをもらって、更にこの家で彼女に家庭教師をするだけで更にいただける。
僕はお金の為だけにあなたに勉強を教えている。
だから、あんな純粋で真っ直ぐな言葉を僕に向ける必要はない。
こんなに汚れた人間を、あなたはいつも真っ直ぐに見つめて。
僕が見た世界を興味深そうに聞いて、嬉しそうに笑う。
「用が済んだから帰りましょう」
僕は、お金さえ手に入ればなんだっていい。
今の環境を抜け出す為に。
彼女は、ここから逃げたいと思わないのだろうか。
同じ境遇の彼女は、僕のように抜け出したいと強く願ってはいない。
どうして、
彼女は弱くない、
ここから抜け出せば、幸せな未来が待っているはずなのに。
どうして、願わない………
続く
.
[
back]