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「あなたは、強いですね。本当に眩しいくらい………」

「双熾、さん?」


今まで見たことのない複雑な笑みに、なまえは少しだけ戸惑った。


そんななまえの表情を見た双熾はいつものように、笑うのだ。


「どうか、あなたはそのままでいてください」


双熾はなまえの手をそっと包む。


ひやりとした手の冷たさ、彼は一体いまどんな気持ちなのか。


双熾の手に自分の手を重ね、包み込むようにぎゅっと握り締めた。


「どうか、汚れることなく、純粋なあなたのままで………」


双熾の呟きは部屋の静寂な空気に溶けてきえた。


暫くの間、二人はそのまま立ち尽くしていた。





























「相変わらず心にもないことを言うんだな、貴様は」

「見ていらしたんですね、随分なご趣味で」

「いいぞ、その反抗的な眼。直接見ていたんじゃない、監視カメラで見たんだ」

「あなたも、相変わらずですね」

あの小さな鳥籠に閉じ込められて、彼女は一度たりとも愚痴を言わない。


そんな彼女に意地悪な質問をしてみても、彼女は言わない。


それどころか自分に出会えて幸せだと。


そんな言葉は勿体ない。


眩しすぎるほどの言葉を受け取る資格はないし、そんな彼女に胸が何故か痛む。


僕は、あなたが思うような人間ではない。


「さっき、狗崎の執事から渡された。今回の報酬だそうだ」

「ありがとうございます」


彼のお側にいるだけで充分すぎるものをもらって、更にこの家で彼女に家庭教師をするだけで更にいただける。


僕はお金の為だけにあなたに勉強を教えている。


だから、あんな純粋で真っ直ぐな言葉を僕に向ける必要はない。


こんなに汚れた人間を、あなたはいつも真っ直ぐに見つめて。


僕が見た世界を興味深そうに聞いて、嬉しそうに笑う。


「用が済んだから帰りましょう」


僕は、お金さえ手に入ればなんだっていい。


今の環境を抜け出す為に。


彼女は、ここから逃げたいと思わないのだろうか。


同じ境遇の彼女は、僕のように抜け出したいと強く願ってはいない。


どうして、


彼女は弱くない、


ここから抜け出せば、幸せな未来が待っているはずなのに。


どうして、願わない………










続く
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