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色々と考えていると、部屋の結界が解かれた気配がし、暫くするとコンコンという音が聞こえた。
「はい」
「失礼します」
先ほどの執事ではなく、入ってきたのは若い青年だ。
容姿はキレイに整えられ、思わず言葉が出ない。
背筋をキチンと伸ばして青年はなまえを見据えた。
「はじめまして、なまえ様。本日より家庭教師としてなまえ様のお側にいることになりました。よろしくお願いします」
「………そう、ですか」
そういうセリフは聞き飽きている。
当たり障りない上辺だけの言葉、だからこの人も欲しいのは狗崎の名前だけ。
今までの人がそうだったように、彼も同じだろう。
「しかし、驚きました」
「なにに、ですか?」
「なまえ様はお勉強も大変優秀だとお聞きしました、その上、お美しい方でいらっしゃいます」
青年の言葉になまえは一瞬固まった。
それを見ていた青年は首を傾げ、なまえの顔を覗き込んだ。
「具合が悪いのでしょうか、それなら誰かを呼ばなくてはなりません!」
「い、いえ!違います、私は大丈夫ですから」
「そう、ですか?でも、体調が優れないようでしたら遠慮なく申し付けてください」
なまえは逸る鼓動をなんとか抑えた。
あんな恥ずかしいセリフをさらっと言ったり、自然に顔を近付ける辺りが心臓に悪い。
(なんだか、連勝と違う)
狗崎家に若い執事などはおらず、大体が四十代から上だ。
自然に関わる人間は年上だらけだった。
若い男性と言えば幼なじみの連勝くらいで、彼のような年若い男性は慣れない分少しだけ緊張してしまう。
「それでは、早速ですが明日から毎日お伺いします」
「今日はやらないんですか?」
「ええ、今日は顔合わせみたいなものです。突然来られて勉強をしましょうっていうスパルタはしないですよ」
不思議な気持ちになる。
彼がよく分からない。
大抵の人間が考えることは分かるはずなのに、彼が考えることも目的も分からない。
彼は、一体なにが目的なのだろう。
「あ、そういえば私はまだあなたの名前を聞いていないです」
「なまえ様に名乗るほどではないですよ、僕のような人間は。」
「私が呼ぶ時に困ります」
それを聞いた青年は、そうですよねと言ってにっこり笑った。
「ご挨拶が遅れました。御狐神双熾と申します、どうぞお好きなようにお呼び下さい」
彼との出会いが、全てを狂わすなんて。
この時は思いもしなかった。
続く
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