2


色々と考えていると、部屋の結界が解かれた気配がし、暫くするとコンコンという音が聞こえた。


「はい」

「失礼します」


先ほどの執事ではなく、入ってきたのは若い青年だ。


容姿はキレイに整えられ、思わず言葉が出ない。


背筋をキチンと伸ばして青年はなまえを見据えた。


「はじめまして、なまえ様。本日より家庭教師としてなまえ様のお側にいることになりました。よろしくお願いします」

「………そう、ですか」


そういうセリフは聞き飽きている。


当たり障りない上辺だけの言葉、だからこの人も欲しいのは狗崎の名前だけ。


今までの人がそうだったように、彼も同じだろう。


「しかし、驚きました」

「なにに、ですか?」

「なまえ様はお勉強も大変優秀だとお聞きしました、その上、お美しい方でいらっしゃいます」


青年の言葉になまえは一瞬固まった。


それを見ていた青年は首を傾げ、なまえの顔を覗き込んだ。


「具合が悪いのでしょうか、それなら誰かを呼ばなくてはなりません!」

「い、いえ!違います、私は大丈夫ですから」

「そう、ですか?でも、体調が優れないようでしたら遠慮なく申し付けてください」


なまえは逸る鼓動をなんとか抑えた。


あんな恥ずかしいセリフをさらっと言ったり、自然に顔を近付ける辺りが心臓に悪い。


(なんだか、連勝と違う)


狗崎家に若い執事などはおらず、大体が四十代から上だ。
自然に関わる人間は年上だらけだった。


若い男性と言えば幼なじみの連勝くらいで、彼のような年若い男性は慣れない分少しだけ緊張してしまう。


「それでは、早速ですが明日から毎日お伺いします」

「今日はやらないんですか?」

「ええ、今日は顔合わせみたいなものです。突然来られて勉強をしましょうっていうスパルタはしないですよ」


不思議な気持ちになる。


彼がよく分からない。


大抵の人間が考えることは分かるはずなのに、彼が考えることも目的も分からない。


彼は、一体なにが目的なのだろう。


「あ、そういえば私はまだあなたの名前を聞いていないです」

「なまえ様に名乗るほどではないですよ、僕のような人間は。」

「私が呼ぶ時に困ります」


それを聞いた青年は、そうですよねと言ってにっこり笑った。





「ご挨拶が遅れました。御狐神双熾と申します、どうぞお好きなようにお呼び下さい」





彼との出会いが、全てを狂わすなんて。



この時は思いもしなかった。






続く
.

prev 

[back]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -