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ふわり、ふわり



窓を開けると、それは空の彼方へと飛んでいく。


空に向かって手を伸ばしたが、バチッという渇いた音がしただけで小さな手は窓から向こうには伸ばせなかった。


(やっぱり、無理だよね)


無理だという答えは何万回試して、何万回も出たもの。


何度試しても結果はいつだって同じ、分かっていても空に手を伸ばすことを止めない。


――"もしかしたら"



そんな淡い期待を込めて、12歳の少女は空を見つめた。







狗崎家は華道の名家、そんな狗崎家に12年前に生まれた女の子は天狗の先祖返り。


一族に繁栄をもたらすという言い伝えがあったのか、女の子は生まれて数年後、鳥籠と呼ばれる部屋で過ごしている。


結界が厳重に張られ、中に入るには何重もの結界を通らなければならない。


外から開けない限り、中から出ることは出来なかった。


少女の名前はなまえ、彼女に双子の妹がいると知ったのはつい最近。


妹は生まれて直ぐに離されてしまった為、顔を見たこともなければ双子という事実さえ知らなかった。


妹は先祖返りではなく、普通の人間として過ごしている。


(この間、メイド達が言ったのを聞いただけだけど)


彼女の両親はここに来ることはほとんどない、だから両親の顔はいつだって曖昧。


メイド以外に連勝という同じ先祖返りが近くに住んでいて、彼が月に一度遊びに来るだけ。


学校はもちろん行かせてもらえない、代わりに自分から頼んで問題集や教科書を揃えさせ、自己流で勉強をしていた。


鳥籠に飼われているだけでは嫌だ、いつかここを出た時に恥ずかしい人間にはなりたくない。


だから知識も学力も必要、というのは後付けで本来はやることがないから暇潰しにやっているだけのこと。

「なまえ様」

「…………なに?」


ドアの向こうで控えめなノックが聞こえ、ここを仕切る古株の執事の声がする。


彼が来るときはいつもなにかがあるとき、だから今回もろくでもない話をしに来たのだろう。


「なまえ様に家庭教師の方がお見えになっております」

「家庭教師?聞いてないわよ、そんな話」

「奥様と旦那様が命じて手配した者です、くれぐれも恥のないよいに」


それだけ言い残すと、足音が遠ざかっていった。


(私の意見は無視、当たり前だけど)


いくら先祖返りでこんな場所に閉じ込められても、結局は彼らの道具でしかない。


一族の繁栄が消えない限り、ずっとここにいる運命だろう。


そんなこと分かっていた。


「家庭教師か…………」


今になってから、何故そのような者を側に置こうとするのか分からなかった。







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