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「こちらがなまえ様のお部屋になります」

「…………」


双熾に案内された部屋はかなり広々としていて、なんだか落ち着かないような気がした。


部屋にはいくつか実家から持って来た段ボールが積まれており、無機質な部屋に見えるがそれが逆に落ち着いた。


「お荷物はこれだけでしょうか?」

「これが実家にある私の全ての荷物……これ以外に置いてるものはないから、」


淡々と双熾の問いを返すなまえの表情を見つめ、
双熾はただ小さくそうですか、と言った。


家具は備え付けのものだから持って来る必要はない、
必要なのは学校のものと洋服ぐらいだ。


そう思っていたなまえが部屋をぐるりと見渡し、
ふとある部分に目が止まった。


「あれ、は?」

「あれは僕からなまえ様へ細やかなプレゼントです。これを用意するのに少々時間が掛かって、お迎えが間に合わずに申し訳ありません」


目の前に置かれているガラスのテーブルの上に溢れんばかりの花が敷き詰められている。


このような物は実家にはなかった、その色鮮やかな花に目を奪われてしまったのだ。


「プリザーブドフラワーです、本物の花束だと枯れてしまいますが、これならずっと飾っていられます。これは僕からなまえ様へ歓迎の意味を込めております」

「………気を使わせてごめんなさい…」

「いえ、これは僕が勝手にやってしまったことです。
もしかしてご迷惑でしたでしょうか?」

「ちが、違う、その……あまりこういうのに慣れていないから、」


誰かに歓迎されることがこんな気持ちになるとは、
初めて沸き上がる気持ちに戸惑いを覚えた。






――お前は…………だ、





「なまえ様、具合でも悪いですか?」

「いえ……それよりお花、ありがとうございます。
玄関かどこか皆が見える場所に飾ります」

「なまえ様がお花をお好きだと伺ったので、喜んでいただいて嬉しいです」


にっこり笑う双熾になまえは視線を少し外し、
プリザーブドフラワーを再び見つめた。


敷き詰められている様に見えた花は綺麗にいくつかの専用の器に入っていた。


これならこの先も暫く枯れずに玄関やリビングに飾れる、これだけのものを用意してくれた双熾の心遣いに感謝した。


「これからよろしくお願いいたします」

「よろしく、お願いします、御狐神さん」


ここから新しい日々が始まると思うと少しだけ期待が膨らんだ。


許されるならずっとこのままで良いと願ったほど。


この地上に安息と居場所はないと分かっていた……



続く

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