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「はぁ………」


エレベーターに乗り込むとなまえは溜め息をつき、必死に痛みに耐えた。


段々と酷くなる痛みに耐えながら、自分の階に停まった。


「あれ、なまえちゃん?」


エレベーターの扉が開くと夏目が立っていて、一瞬驚いて声が出なかった。


「そーたん探しているんだけど、下にいるかな?」

「は、はい……」

「そっか、ありがと☆」


夏目と入れ替わりでエレベーターを出ようとすると、夏目は通り過ぎようとするなまえの手を掴んだ。


振り返ると夏目は口角を上げて笑っていて、それがなまえには異様な光景に見えた。


「その痛み、辿ったらダメだよ」

「え………」

「あと、胸のもやもやはその内に気付くと思うから安心して」


掴んだ手をそっと離されたが、なまえはあまりのことに咄嗟に言葉が出ない。


一方の夏目は、そんななまえを見て小さく笑った。


「前にも言ったでしょ?視えるんだ、君のことも」

「そういえば、夏目さんも先祖返り………」

「見たくないものまで視える、たまにしんどい時があるけどねー☆」


夏目はいつも通りの笑顔を向けると、先ほど感じた異様な空気はないと判断し、なまえは胸を撫で下ろした。


「さて、そろそろ行くね。なまえちゃんは早く治しなよ!」


バイバイと夏目は手を振り、そのままエレベーターは閉まって動き出した。


あっという間の出来事だったが、やけに頭に残り、再び頭に痛みが戻ってきた。


「っ、」



――その痛み、辿ったらダメだよ。



夏目の意味深な言葉が木霊する。


あれは一体どういう意味なのか知りたかったが、なんとなく聞いてはいけないような気がした。


「なまえさま!」


夏目と別れて暫くすると聞き慣れた声が響き、エレベーターから双熾の姿が見えた。

痛みに耐えられず、廊下に座り込んだなまえの側に双熾は駆け寄った。


「大丈夫ですか、立てますか?」

「御狐神、さん………」

「夏目さんが教えてくれました、僕も心配で……ちょっと失礼します」


一言断りを入れると、双熾はなまえを横抱きにした。


「少し我慢してください、部屋までお連れします」


恥ずかしかったが、痛みで上手く言葉をだせない。


それに、双熾から伝わる温もりがどこか安心させた。




――その痛み、辿ったらダメだよ。




夏目の言葉がハッキリと頭に響く。


痛みと夏目の言葉が頭をぐるぐる周り、なまえはいつしか瞼を落としたのだった。






続く
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