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暫く考え込んでいたなまえに野ばらがそっと肩に手を置いた。
「大丈夫?」
「大丈夫です、けど……ほとんど会話したことがないから、いきなりで混乱してます」
「そうよね、いきなりだもんね。でも安心して、私たちはなまえちゃんの味方だから」
優しく微笑む野ばらに胸の奥が熱くなるのを感じ、周りを見渡すとカルタも連勝もみんな同じ様に笑っていた。
どうしようもなく嬉しくて、初めて覚える感情をどう表現して良いか分からない。
「ありがとう、ございます……」
「遠慮しないで、ボクら仲間じゃないか☆」
「は、はぁ……」
「あ、なんなら親友でもいいよー!」
残夏のノリに反応に困ったが、彼もまた野ばら達と同じ気持ちなんだろうと思った。
「っ、」
頭が痛む。
だけど彼女達に悟られないようになんとか堪えた。
――真っ白だよ。
「なまえちゃん?」
「あ……」
「さすがに疲れたよね、御狐神の言う通りにお開きにしようか」
身体を上に伸ばした野ばらはゴミ袋を手に取り、食べ散らかしたラウンジを片付けることにした。
唯が来たことにより、片付けが一時中断してしまったので双熾以外の皆でそれぞれ始めた。
(雪、白…………紅。知らない、こんな記憶…)
唯に会ってから、頭の奥がズキズキと痛む。
知らない映像が頭の中で途切れ途切れに流れてくる。
断片的な映像の正体は分からない、だがそれは決して良いものではないと本能が告げる。
――見て、これ全部なまえちゃんの………
「…………」
正体が分からないものに不安になった。
(御狐神さん………)
不安な時は何故かあの人の優しい笑顔が浮かんで、
『なまえさま、』
名前を呼ばれることが心地よいものだと知らなかった。
いつだって、あの人は不安を取り除いてしまう。
欲しかった言葉で温かく包んでくれる。
(私、なんでこんなに御狐神さんを求めてるの?)
一つの疑問が浮かんだが、不安になりそうな心をなんとか抑えるのに必死だった。
「御狐神さん」
「はい?」
「そんなに警戒しなくていいんじゃない?久し振りなんだからさ」
「……………そうですね」
怖くて怖くて、
封じ込めていたそんな過去を、一人の少女によって全て狂わせるなどまだ誰も知らなかった。
続く
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