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「なまえちゃん、そんな警戒しなくて大丈夫だよ?」
「…………」
「嫌でも"視える"からね。大丈夫、君が傷付くことはしないからさ」
「当たり前よ!なまえちゃん泣かしたらしばくからね!!」
なまえをぎゅっと後ろから抱き締めた野ばらは強く言い、残夏に手で追い払った。
「その前にそーたんが黙ってないと思うからやらないよ、そーたん怒らせたくないし」
「夏目さん、よくお分かりになりましたね」
近くで会話を聞いていた双熾は紳士的な笑みだったが、明らかに目が笑っていない。
残夏はそんな双熾を見て小さく笑い、テーブルの料理に手をつけた。
「さぁ、食べようか。そーたんが温め直してくれたしね☆」
「おい、コラ、残夏ぇぇぇ!!!」
ラウンジの扉が勢いよく開かれ、そこに立っていたのはボロボロになった渡狸だった。
そんな渡狸の後ろには、チョコレートを食べているカルタも一緒にいる。
「あ、お帰りー☆」
「おーまーえー!!!なにトラップ仕込んでいるんだ、お陰で……」
「はい、優勝は渡狸、カルタちゃんペア。ほら、みんな拍手!」
双熾もおめでとうございます、と言って拍手をした。
なまえもつられて拍手をしてしまったが、何だかこれで良かったのか一瞬現実に返ってしまう。
(まぁ、いいか)
なんだかんだ言って、誰かとこんな賑やかに過ごしたのは初めてで。
渡狸も残夏も悪い人達ではないと分かったし、このマンションも更に賑やかになるだろう。
誰かに祝福されることが、こんなにも温かくて幸せなものだと初めて知ったのだから。
「ほら、なまえちゃんも改めて乾杯しよう?」
「ありがとうございます」
野ばらからジュースが入ったグラスを渡され、乾杯が始まる。
それぞれがワイワイと騒ぎ、飲んで食べて笑って。そしてまた笑う。
きっと、こんな些細なことさえ愛しく感じる日が来ることをまだ誰も知らなかった。
「ここが、メゾン・ド・章樫?」
「左様でございます、ここになまえ様がいらっしゃいます」
少女はふと微笑み、マンションの入り口を見上げて小さく呟いた。
「大丈夫、もうじき楽になるからね……」
日常はあっさり壊れるのだと、知っていた。
だけどこの瞬間、幸せを感じていた私はすっかり忘れていたのだった。
続く
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