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「ね、なまえちゃん」
「はい?」
ふいに残夏に声を掛けられて振り向くと、彼は顔を近付けてなまえの顔をじっと見つめた。
無言のまま見つめられるのもなんだか居心地が悪く、一歩後退りしてしまう。
「その胸のモヤモヤが何なのか、じきに分かるよ。君次第だけどね」
「え……」
「百目の先祖返りなんだ、見えないものまでなんでも見えちゃう、そのせいで昔から気味悪がられて一人ぼっちに…」
残夏はハンカチをポケットから取り出し、目元をハンカチで拭いた。
どのみちこのマンションの住人ならば、何かしらの先祖返りに違いないと思っていた。
このマンションは、先祖返り達が住まうマンションなのだから。
「まあ、そういう訳だから仲良くやろうね!」
「………よろしくお願いします」
「あと、」
ニッコリと残夏は微笑みながらなまえに耳打ちし、暫くすると離れた。
眉を潜めたなまえに残夏は再び笑みを深くし、軽い足取りでテーブルに向かう。
暫く立っていると双熾がそっと側に行き、心配そうになまえの顔を覗きこんだ。
「なまえさま、どうかなさいましたか?」
「………いえ、別に…、それより料理冷めてしまいましたけど、温め直しますか?」
「そうですね、温めてまいります」
多分、これ以上聞いても彼女は何も言わないだろうと判断し、双熾はいつも通りの笑顔でなまえに接した。
「あー、ただいまー」
「あ、お帰りなさい、野ばらさん。連勝」
ラウンジにはちょうど良いタイミングで野ばらと連勝が現れ、野ばらは溜め息をつきながら椅子に座った。
「途中で飽きたから戻ってきちゃった、なまえちゃんの歓迎会なのに、なまえちゃんを祝わず人形探しなんてやってられないわよ」
「野ばらさん……」
「なまえちゃん、あのウサギ男に気を付けてね」
「んー、なんか心外だな。なまえちゃんはれっきとしたお友達なのにね?」
「…………はぁ、」
反応薄い、と何故だか残夏に文句を言われてしまったが、彼を友達と呼べるかは微妙だった。
残夏は悪い人ではないと分かるが、なんとなく読めない男だ。
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