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携帯電話を選び終えた頃、辺りは夕闇に染まっていた。


あれから意外にもスムーズに決まり、なんとか契約を結んでショップを後にした。


「ありがとうございます、御狐神さん」

「とんでもないです、だけどそちらの方でよろしかったですか?」


双熾が選んでくれた携帯電話は二つに絞られ、その二つを更に一つに絞るのは難しかった。


「でも、桜の薄いピンクと雪の白って真逆でしたよね?」


双熾が選んだのは季節をモチーフにした色で、
薄いピンクで桜の花びらが描かれているものと、雪のような絵が描かれた白い携帯電話。


結局、散々悩んだ挙げ句になまえが選んだ携帯電話は白の方だった。


「なまえさまはピンクもお似合いですが、雪のような白も似合うかと思いまして」

「そうですか?私はピンクって柄じゃないような…」

「でも、やはり雪の白もお似合いですよ」

「雪の白……白っていいですよね。全てを無にして真っ白に消して…」

「……なまえさま?」






彼らの箱庭を真っ赤に染めた庭を上から白で塗り潰して。


全てを消してしまおう。


そう、あなたがいるから真っ赤に染めなきゃいけない。
そしてそれを消す為に私はまた箱庭を真っ白に染める。


全ては、あなたのせい……






「なまえさま、」

「……あ……えっと、どうかしました?」

「大丈夫ですか?具合がよろしくないんじゃ……」

「そう、ですね。多分疲れちゃったのかな……」


早く帰りましょうか、となまえは双熾に笑顔を向けて先に歩き出した。


そんな彼女の背中が小さく見え、胸の奥が少しだけ苦しくなる。


(雪の、白………)


双熾はなまえがポツリと呟いていたことを胸の内で繰り返した。







ーー真っ白なこの部屋は、ただ一つの私の居場所です。






また、笑った。


辛いはずなのに、いつもそうやって笑う。


そんな気持ちをふわりと飛ばして。


鳥のように自由に羽ばたく翼はないけど、


いつしか、あなたを空の彼方まで翔ばすから。


待ってて、くださいね。







「御狐神さーん、どうしましたか?」

「……いいえ、帰りましょうか。なまえさま」

「はい、今日のお夕飯はなんでしょうね。楽しみです!」





――一人だけ幸せなんて、させない。





だから、真っ赤に塗り潰したの。
ぐちゃぐちゃにして、なにもかも壊した……





(…………)


なまえに悟られないように双熾は溜め息をつき、彼女の背中をそっと見つめながら歩いた。




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