2
携帯電話を選び終えた頃、辺りは夕闇に染まっていた。
あれから意外にもスムーズに決まり、なんとか契約を結んでショップを後にした。
「ありがとうございます、御狐神さん」
「とんでもないです、だけどそちらの方でよろしかったですか?」
双熾が選んでくれた携帯電話は二つに絞られ、その二つを更に一つに絞るのは難しかった。
「でも、桜の薄いピンクと雪の白って真逆でしたよね?」
双熾が選んだのは季節をモチーフにした色で、
薄いピンクで桜の花びらが描かれているものと、雪のような絵が描かれた白い携帯電話。
結局、散々悩んだ挙げ句になまえが選んだ携帯電話は白の方だった。
「なまえさまはピンクもお似合いですが、雪のような白も似合うかと思いまして」
「そうですか?私はピンクって柄じゃないような…」
「でも、やはり雪の白もお似合いですよ」
「雪の白……白っていいですよね。全てを無にして真っ白に消して…」
「……なまえさま?」
彼らの箱庭を真っ赤に染めた庭を上から白で塗り潰して。
全てを消してしまおう。
そう、あなたがいるから真っ赤に染めなきゃいけない。
そしてそれを消す為に私はまた箱庭を真っ白に染める。
全ては、あなたのせい……
「なまえさま、」
「……あ……えっと、どうかしました?」
「大丈夫ですか?具合がよろしくないんじゃ……」
「そう、ですね。多分疲れちゃったのかな……」
早く帰りましょうか、となまえは双熾に笑顔を向けて先に歩き出した。
そんな彼女の背中が小さく見え、胸の奥が少しだけ苦しくなる。
(雪の、白………)
双熾はなまえがポツリと呟いていたことを胸の内で繰り返した。
ーー真っ白なこの部屋は、ただ一つの私の居場所です。
また、笑った。
辛いはずなのに、いつもそうやって笑う。
そんな気持ちをふわりと飛ばして。
鳥のように自由に羽ばたく翼はないけど、
いつしか、あなたを空の彼方まで翔ばすから。
待ってて、くださいね。
「御狐神さーん、どうしましたか?」
「……いいえ、帰りましょうか。なまえさま」
「はい、今日のお夕飯はなんでしょうね。楽しみです!」
――一人だけ幸せなんて、させない。
だから、真っ赤に塗り潰したの。
ぐちゃぐちゃにして、なにもかも壊した……
(…………)
なまえに悟られないように双熾は溜め息をつき、彼女の背中をそっと見つめながら歩いた。
.
[
back]