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ドキドキと心臓がうるさい。
速くなる心音に違和感を覚えたが、なぜそうなるのか全く分からない。
彼が笑うとそんな風になってしまう。
「私は……病気なのかな…」
「どうかなさいましたか、なまえさま」
「あ……、えーっと、どんな携帯がいいかなって、あはは…」
なまえと双熾は携帯の専門ショップに来ていた。
学校が終わり、正門の前には双熾の姿があった。
カルタと帰ろうとしていたなまえは驚いたが、カルタは後はお二人で楽しんでと言って先に帰宅してしまう。
双熾にどうしたのか理由を訊ねると、新しい携帯電話を見に行かないかと言われたのだ。
具体的に日にちは決めてなかったが、双熾は一日でも一秒でも早くなまえとメールや電話をしたいと笑顔で言った。
さすがに恥ずかしかったが、中々買いに行こうと双熾を誘えず、向こうから誘ってもらえて逆に感謝しているのだ。
「色はお決まりですか?あとはデザインなどは…」
「うーん……こんなにたくさんあると悩みますね。シンプルな方がいいですけど…」
携帯電話というやつは、ただ単に使用人に連絡する以外使ったことがない。
メールなんてする相手がまずいない。
あのマンションに来る前まで、自分の世界は狗崎家だけで他の世界とは遮断していた。
なので携帯電話の使い方は電話くらいしか分からず、調べると今の携帯電話は非常に種類も多ければ中身も凄いと聞いた。
正直、目の前にズラッと並んで飾られている携帯電話を見てもなにが良いのか全く分からない。
「では、ご一緒に選ばさせてもよろしいでしょうか?」
「え……いいんですか?」
「ええ、一応それなりに勉強したので、なんなりと聞いてください」
双熾に言われ、とりあえず自分の要望を伝えることにした。
デザインや色合いはなるべくシンプルで、機能とかはよく分からないのでそこは双熾に任せる方向で伝えた。
「GPS機能もあるみたいですね……なんだか凄いです、今の携帯電話」
「GPS気になりますか?24時間いつでもなまえさまの居場所を確認したいですね」
「それは、ちょっと…」
「冗談ですよ、なまえさまの側に短い時間でもいるだけで幸せですから」
いつものようにそう言った双熾に対し、なまえはいつもとは違った気持ちになった。
(やっぱ、病気なのかな……)
心臓がドキドキとうるさい。
自分がおかしいのではないかと考え、携帯選びに中々集中出来ずにいた。
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