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「紅茶を淹れ直してきます、ソファーで待っていてください」


双熾はなまえをソファーに座らせ、キッチンへと向かった。


あれから暫くして、マンションには明かりが再び灯ったのだった。


双熾の腕の中で落ち着きを取り戻したなまえの表情は、部屋の明かりによって泣きはらした目をしていたことに双熾は気付く。


恥ずかしそうにその腕から離れると、双熾は彼女の手を引いてソファーに座らせたのだ。


「少しは落ち着かれましたか?」

「すみません……恥ずかしいとこ見られて…」

「いいえ、恥ずかしくともなんでもないですよ。
なまえさまがご無事で安心しました」


双熾はテーブルに淹れたての紅茶を置き、なまえは深呼吸してそれを一口飲む。


紅茶の温かさからかようやく落ち着きを取り戻し、小さく息を吐いた。


「連勝から聞いたんですね……」

「最初は頑なに言わなかったのですが、途中からやはり心配なされて話してくださいました」


雷が苦手だと知っているのは幼馴染みの連勝だけで、
彼にはラウンジを出る際に絶対に誰にも言わないでと念を押して言った。


この年になって雷が苦手とは、誰にも知られたくはなかったから。


「一応、御狐神さんに停電したって伝えようとしたんですけど、番号知らなくて…」

「確かにまだ存じ上げてません。だけど僕以外の番号は知っているはずでは……」

「連勝しか今は知らなかったですけど、なんだか一番最初に御狐神さんに知らせなきゃって……」



暗闇の中で浮かんだのはあの穏やかな笑顔で。
優しい声がずっと離れない、あの声が聞きたかった。


闇に光を照らしてくれた彼に、どうしても会いたくて。


だからあの時、双熾の姿を見て安心してしまい涙が溢れそうになったのは自分の心だけに留めようと思っていた。


「あ、新しい携帯買おうと思ってたので、今度一緒に選んでくれませんか?」

「よろしいのですか?」

「はい、そしたら一番最初に御狐神さんの番号をいれます!」

「では、何があっても僕は一番にあなたの元に行きますから。今度はちゃんと連絡出来ますね」


なまえは小さく頷き、たったこれだけのことなのにどうしようもなく満たされている。


双熾はそんななまえの視線に気付き小さく笑う。


(あれ……?)


双熾の優しい笑顔と声を聞くだけで安心して、心の奥がじんわりと温かくなる。


この感情をなんと呼ぶのか、今はまだ知らなかった。




続く
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