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「なまえさま!」


部屋に着いた双熾は事前に渡されていた合鍵で中に入り、部屋の中は真っ暗だったが懐中電灯で周り光を当てながら慎重に歩く。


リビングにはまだ手を付けていないケーキと紅茶があり、リビングにはいないことを確認した。


その足取りは彼女の寝室に近付き、申し訳ないと思いながら中に入ることにした。


「なまえさ……」


声を掛けようとしたが、再び鳴り響く雷によってその声は掻き消されてしまう。


ベッドの上でなにかが蠢き、そこに懐中電灯の光を照らすと何かの塊がそこにはあった。


雷が鳴る度にそれは小さく動き、双熾はそこにそっと近付いた。


「なまえさま……」

「っ、やっ!」


そっと触れると布団を被っていたなまえは小さく悲鳴を上げ、被っていた布団から顔を出した。


息を飲むなまえは懐中電灯の光で、そこに立っていた双熾に気付いたのだ。


「みけ、つ……かみ、さん?」

「なまえさま、良かった、ご無事で……」

「どう、して………っ、」


二人の会話の間に再び雷が鳴り、なまえは身体を強張らせて耳を塞いだ。


そんな彼女を双熾は断りを入れて優しく抱き締めた。


「大丈夫です、僕がいます。だから安心してください……」

「っ、う、ん……」

「よく頑張りしたね、さすがは僕が愛してる方です」

「………」


腕の中に抱き締めている人はこんなに弱く、肩を震わせながら声を押し殺してじっと耐えている。


『あいつ、雷が苦手なんだよ』


一族によって部屋に監禁されて、外の世界を見ることがなかった少女時代。


外で鳴り響く雷が何なのか分からず、助けを求めても誰も側にいることもなくただじっと耐えるしかなくて。


それ以来、あの音を聞くと身体が強張って苦手というより小さい頃の恐怖が蘇ってくるのだと。


なんでもない、大丈夫だと帰宅した彼女になぜ気付かないのか、


あんなに強がって、こうして来るまでどんなにじっと耐えて泣くのを堪えたのだろうか。


『その部屋の中で、一人で戦ってきたんだね……』


連勝から聞いた野ばらが言っていたことが過り、余計に胸が苦しくなった。


あの鳥籠の中で一人暗闇の中で耐えて戦ってきたのだろう、両親に甘えたくても甘えられず、ただ一人で。


様々な感情が双熾の中で溢れ、なまえを落ち着かせる為に暫く強く抱き締めていた。


もう大丈夫だから、安心して欲しいという願いをそこに込めて。




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