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帰宅する頃にはまだ降っておらず、なんとか安心してラウンジにカルタと共に行くことにした。
特にラウンジに用事があるわけではないが、なんとなく皆がそこにいる気がして足が向いてしまうのだ。
「あ、なまえちゃん、カルタちゃん、おかえりー!」
「お帰りなさいませ」
「おー、おかえりー」
ラウンジにいた野ばらと双熾と連勝が口々に言い、なまえは一瞬だけ黙り込んでしまう。
そんな彼女を心配し、双熾は側まで近付いて顔を覗き込んだ。
「どこか具合が悪いですか?」
「い、いえ……そういう訳じゃなくて、その……た、ただ、いま」
ぎこちなく彼らにそう言うと部屋の空気が更に穏やかになり、
恐る恐る彼らの表情を見ると小さく笑っていた。
「はい、お帰りなさい。なまえさま」
「んー!可愛い、その表情!まさにメニアックよ!!」
「立ち話もなんだから座れよ、いまお茶持ってくるからよ」
「ケーキも……」
はいはいと言いながら連勝は立ち上がって奥に行き、野ばらはニコニコしながらなまえを見ていた。
双熾も心なしか嬉しそうに目を細め、なんだかくすぐったいような気持ちになる。
"ただいま"といえば"おかえり"と返ってくる。
ただそれだけなのに、それが今はとても幸せに感じられた。
「そういえば今日は雷を伴う雨みたいよ、嫌よねー、雨とか」
「そうですね、停電に備えた方がいいですね」
「ほら、温かいお茶とケーキ貰ってきたぞ」
連勝はなまえとカルタに紅茶とケーキを差し出し、二人はそれを受け取りテーブルに置いた。
美味しそうなショートケーキに香りが素晴らしい紅茶だったが、なんとなく今は食べる気持ちになれない。
「しゅ、宿題やるから、これ部屋で食べるね。ありがとう、連勝」
「あ、おう……」
「じゃあ、失礼します」
ケーキと紅茶を持ったなまえは連勝の横を通りすぎ、
すれ違い様になまえは連勝に何かを一言だけ告げ、そのままラウンジを後にした。
一方の連勝は一瞬困惑した顔になったが、小さく溜め息をついて再び椅子に座ることにした。
「そろそろ、降るかな……」
ぽつりと連勝は呟いて窓を見ると、窓ガラスにいくつか水滴が当たっていた。
そして次第にその間隔が短くなり、やがて部屋の中にいても聞こえるくらいの雨音が耳朶に届く。
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