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十数年前、ある家に双子の赤子が産まれた。


双子の内、片方は先祖返りという一族に繁栄をもたらすということで大事に扱われた。


欲しいものは言わなくても勝手に与えられた、
その代わり"自由"という一番欲しいものは与えられない。


記憶にあるのは結界の中にある部屋、そしてそこを毎日行き来するメイドや執事たち。


冷たい目を向ける両親とあまりあったことのない妹。


初めてそんな妹をちゃんと見たのは小学生になった時、妹は近付いてはならないと言われた結界に近付いた。


結界を解かない限り中には当然入れない、
メイド達は術が使える者のみしか入れないはず、だが彼女はそのドアを開けた。


自分とそっくりな少女がそこにはいた、そしてその瞳はしっかりと自分が映っている。


『ねぇ、どうして私じゃないの?』


声を聞いたのはこれが最初で、恐らく最後だろうと思った。


私は、生まれてきてはいけなかったんだ。


この時そう思うようになった。


あの瞳は忘れられない、何故なら両親も同じ瞳を常に自分に向けていたから。


悲しくても笑わなきゃ、心が壊れそうになる前に。


例えそれが偽りでも。


私はその想いをふわりと乗せるから……















「そう、ですか……そのような過去が…」


双熾は沈痛な面持ちで真っ直ぐなまえをみつめた。


過去が辛いとかそういうのではなく、
ただあの頃は両親の愛情が欲しかった。


普通の家庭のように。


学校には行かせてもらえた、それ以外に自由はなかったけど。


授業参観や学校行事、彼らが姿を現したことはない。


それでも自分は愛されて、生まれてきて本当に良かったという言葉が欲しかったのは事実。


私は………


「でも、なまえさまがお生まれになって僕達は今こうして出会いました。お父様とお母様に、感謝しなくてはいけませんね?」

「そう、ですか?」

「はい、前にも言った通り、僕は家柄などどうでもいいんです、あなた自身をお守りしたい」




あなたは、私が欲しい言葉を見付けて紡ぐ。


本当に希望の光だった。


「早めに帰りましょう、お体が冷えますので。いま車を回してくるので少しお待ち……」


双熾の言葉の途中でなまえは双熾の袖を掴んだ。


「御狐神さん、ありがとう。あと、これからもよろしくお願いします」

「なまえさま……僕は死ぬまであなたに仕えます」

「いや、そこまでって……」

「いいえ、僕は死ぬまで尽くすと決めているのでよろしくお願いします」


こんなに幸せな気持ちになったのは初めてかもしれない。


一筋の光が、胸一杯に満たされていた。
何度も心の中であなたにたくさんのお礼を言った。


あなたは私の希望の光、と……




続く
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