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なまえは息を飲んでその方向に目を向けた。
そこには空のグラスを持った双熾がいて、その先には水を被った男子生徒がいる。
「み、御狐神、さん…」
「っ、お前、なんてことを……タダで済むと思うなよ!」
「では、先ほどのなまえさまに対する暴言の数々を取り消して謝罪してください」
言い返そうとした男子生徒は言葉を発するのを止めた。
正確には言葉が出ない、双熾のもの凄い剣幕によって圧されたからだ。
「彼女を誤解なさっているようなので、なまえさまはとてもお優しく、周りにきちんと気配り出来る素晴らしい方です」
自分はただのSSで、彼女に仕えるのは当たり前のことなのに。
彼女は自分がやったことに対していつもお礼を言って、どんな時も笑顔を向けてくれる。
ただその笑顔がたまに痛々しく見える時がある、
周りに気を使い過ぎるが為に、自分の感情を押し殺してしまってそれが出てしまう。
だから彼女はとても優しすぎる、
「あなたのような方になまえさまの何が分かるんですか?これ以上侮辱するなら、許さないですよ」
「こ、こんなことで許されないぜ、水もぶっかけて」
「彼は私のSS、彼の行動の責任は私が取ります」
テーブルの上に置いてあったグラスを手に取りなまえはそれを頭から被った。
その行動を見た彼らはさすがにこれ以上なにも言えず、ぐっと押し黙った。
「これで満足ですか?時間なので失礼します」
「くっ……」
気付けば時間が迫っていて、これ以上こんな所で油を売っている場合ではない。
会場を出て裏から回って舞台に上がる、
あらかじめ教えられた道を通って挨拶の準備をした。
「なまえさま、ドレスは…」
「水で目立たないのでこのままやります、あと、御狐神さん」
舞台袖でピタリと足を止め、なまえは双熾の方へ振り返った。
自分の為に怒ってくれた彼に、自分は精一杯応えたい。
「ありがとう、怒ってくれて……いってきます」
本当はもっと伝えたいことがあった、
昨日の謝罪とか、一晩中考えていたはずなのに。
何故か彼に伝えたいことはこんなにもシンプルなことだった。
彼は、自分に一筋の光をくれた。
だから、シンプルにありがとう。
そんな言葉が素直に出てきた。
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