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笑わないで、どうか自分が心から笑いたい時だけ笑って。
ドア越しに言われたあの言葉を忘れたことはない、
私は笑わなきゃ、この気持ちに蓋をして。
生きてる限り、
「おはよ、準備出来てる?」
「おは、よ……ございます…」
「ちょっ、どうしたの!?目の下にも隈が!真っ白な肌が青白く……病弱メニアック!!」
朝から部屋を訪ねてきた野ばら、もはや彼女に突っ込む気力などない。
そして今日は懇親会というのもすっかり忘れていた。
昨日はあれから中々寝付けず寝不足であったが、代表で挨拶をする為に休む訳にもいかない。
なんとか起き上がり、野ばらが準備を手伝うと言うのでお願いをした。
「ありがとうございます、なんだかメイクも全部任せてしまって……」
「いいのよ、こういうの好きだから。あ、なまえちゃんって髪の毛サラサラ、ふふ、メニアック……」
(と、鳥肌が……)
なまえの髪の毛にブラシを通し、手際よく纏めてお団子にした。
花のコサージュをちょこんと付け、野ばらは完璧と鏡越しに言った。
「ありがとうございます、野ばらさん?」
「ねぇ、御狐神とケンカした?」
「え……」
「なんとなく、なまえちゃん寝不足で目が赤いし、あいつなら朝ちゃんと迎えに来そうなのに来ないし…」
彼女が言っていることは当たっている、ただ自分がイライラしたのを彼にぶつけてしまった。
本当はあの場で謝らなくてはならなかった、
だがどうしても出来ずに一晩が過ぎた。
「私が、悪いんです。私のせいですから気にしないでくださ……」
「こら、無理矢理笑うんじゃないわよ」
なまえの話の途中でその両頬をひっぱり、野ばらは注意をした。
「い、いひゃい……」
「無理にそう笑わなくていいの、辛いなら辛いって言っていいんだから」
「っ……」
そっと頬から野ばらの手が離れ、ねっ、と付け足してにっこり笑顔を向けた。
そんなことを言われたのは初めてで、どう彼女に返していいのか分からない。
だって、笑わなきゃ私は全ての人達を困らせてしまうから。
辛くても、笑っていればそれで良かったはず。
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