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なんとなくあの場にいたくなくて、半ば逃げるように部屋に戻ることにした。


席を離れると当然のように双熾が送り届け、それだけなのにモヤモヤとしてしまう。


いつもはこんなはずではなかったのに……


「怒っていらっしゃいますか?」

「怒る?私が、ですか?」

「ええ、先ほどの方でしたらなんの関係もありませんし、僕にはなまえさましか見えないですから」


そう言われたらさっきまでは笑って言い返すだろう、だが今は彼のその発言に苛立ちを覚えてしまう。


「キスで、あの人は諦めると本気で思うんですか?
そんな簡単に、御狐神さんは出来るんですか…」

「あれに何の意味もありませんよ」

「そういうのが簡単に出来るなんて……最低です」


エレベーターは自分の部屋の階に止まり、そのまま足を進めた。


なんてことを言ってしまったのか、取り消すことも出来ずに進めた足を止めた。


「確かに僕は最低です、だけど僕はあの方の想いに答えることは出来ない」

「御狐神さんは優しいです、だけどそれが残酷な場合もあります……」


彼は本当に優しい、断っても突き放すことはしない。
だからあんな形になったのだと分かっている。


分かっていてもこんなにモヤモヤしているのは何故なんだろうか、


「こんなに最低な僕はあなたの様な方に、仕える資格はないのかもしれないですね」

「………それは、契約破棄ってことですか?」

「あなたの側にいて浮かれていました、それが裏目に出て、あなたを不愉快な気持ちにさせたのは、僕の失態です」

「そう、ですか……元々SS無しで生活しようとしていたので、きっと私なんかより御狐神さんには素敵な主人がいますよ」


こんな自分に本当に過剰な程に尽くして、家柄ではなく個人を初めて見てくれた。


本当に本当に自分なんかに勿体ないくらい、彼は優しかった。


「数日でしたけど、ありがとうございました」


ふと笑ってそのまま部屋に入った。
そんな背中を双熾はなんとも言えない表情で暫く立ち尽くしていた。


笑わなきゃ、涙が溢れそうになるから。
得体の知れないこの気持ちに蓋をして、繕わなきゃいけない。


いつも通りにやったのに、涙が溢れそうになって苦しい。


私は、何でこんな気持ちになったのだろう。


なんで……




続く
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