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「菖蒲さんが言った通り、私たちは皆のおかげでここにいて、笑顔になって幸せになって……今日のことで改めて思いました。」
側にいるみんなのおかげでここにいて、
大切な人達に囲まれて今を生きている。
それがこんなにも幸せなことで、こんなにも温かい。
「僕たちが幸せになることが、きっと菖蒲さんや思紋様、妖館の皆様や田所さん、唯様、なまえさまのご両親への恩返しなんでしょうね。」
「双熾さん……」
「不謹慎かもしれませんが、僕はあのような形でもあなたに出会えたことに心から感謝します。」
真っ直ぐ双熾に見つめられ、なまえはその場から動けず彼の目をじっと見返した。
あんな形でも、こうして今同じ時を生きている。
隣にいて、大切な存在になって今ここにいる。
「私も双熾さんのご両親に感謝します、こうして出会えたことに。だから……」
「なまえさま!」
言葉を遮られ、気付けば双熾の腕の中にいた。
突然抱き締められたことに驚いたが、双熾の身体が小さく震えてたことに気付いた。
「僕は、あなたを愛して本当によかった……」
小さく呟いたその言葉に、ただ胸が熱くなるのを感じた。
言葉を紡ごうとした直後、それは双熾の唇によって塞がれ、想いを伝えることが叶わなかった。
それでも、その熱が幸せだと感じたことは確かで。
「そ、し……さん、」
「なまえさま……」
その直後、ポケットに入れていた携帯電話が鳴り響き、我に返った。
「もしもし、」
先ほどの熱がまだ残っているせいか、心臓がうるさく鳴るのをなんとか落ち着かせ、
冷静を装いながら電話に出たのだった。
「え、カルタちゃんが……?」
そして、この幸せがながくないということを同時に悟ってしまった……
続く
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