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『16時にここを出るみたいだからそれまではゆっくりしてね、』





唯の言葉がふと脳裏を過り、手元の時計を見るとそろそろ約束の時間に差し掛かっていた。


田所が部屋まで迎えにきた為、双熾と二人でその後に続いて歩いた。


長い廊下には花が生けられている。
狗崎の家は華道で有名だ、それは小さい頃から知っていたこと。


あの部屋にも田所が花を持ってきては飾ったりしていて、自然と花に触れていたのだった。


「唯様とはお話されましたか?」

「うん、元気そうでよかった……」

「左様でございましたか………」


前にいる田所の顔は見えない、だけどその声色はとても優しいものだと双熾は感じずにはいられなかった。


それもそのはずだ、あのことがあってからこの二人は離れ離れになってしまって、
その溝が埋まることはないと思っていたが、
今は少しずつではあるが普通の姉妹のような関係になろうとしている。


幼い頃から全てを見守っていた田所にとって、それはどんな言葉でも表現出来ないほどの喜びであろう。


そして、その気持ちは双熾も同じだ。


「双熾さん、どうかしました?」

「え?」


隣で一緒に歩いている主が不思議そうにこちらの顔を見上げた。


「なんだか嬉しそうな顔をしていたので、なにかあったのかなって……」

「嬉しそうな、顔?僕が……ですか?」

「勘違いだったらすみません、ただなんとなくそんな顔をしていたので。」


指摘されて初めて気付いた。


心で思っていたことがまさか表情にまで表れていたとは。
双熾は小さく、なんでもないですと無理矢理に誤魔化した。


なまえは首を傾げながらも、双熾が大丈夫だと言ったのでそれ以上はなにも聞かないことにしたのだ。




前に歩いていた田所はそんな二人のやり取りを聞いて、二人に気付かれないように小さく微笑んだ。






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