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この電話が来る前は一人で狗崎家へ行くつもりだったが、
双熾がはなと留守番をしていると言っていた。
『僕のことはお気になさらず、どうかご家族と大切なお時間を過ごしてください。僕はここではなさんとお帰りをお待ちしております。』
『え、でも……』
『おーい、ミケ。すげー震えてっけど……』
連勝の言葉になまえは双熾の方に視線を向けると、確かに小さく震えていたのだ。
そして表情は今にも泣きそうな顔で、その表情を見るとなんと言って良いのか分からなくなるのだった。
妖館の他の者たちはそれぞれに予定があるようで、
特に双熾をここに残してもなんら問題はないのだが、なんとなくそれではいけないような気がした。
どうしようか悩んでいる時にタイミング良く、狗崎の家から電話が掛かって来たのだ。
「このような形ですけど、一緒にここへ来られて本当に嬉しいです。」
それは本当の気持ちだった。
たくさんのことを乗り越えて今ここにいる。
それは過去の自分からはとても想像できないこと。
それも全て目の前の双熾と出会い、妖館に住んだことによって得られたもの。
一生かかっても感謝してもしきれないものだ。
「安心してください、僕は何があってもちゃんとあなたをお守りします。」
「双熾さん………私もここで何かあっても双熾さんを守りますかね!」
「それは……とても頼もしいことですね。」
互いに顔を見合い、やがて小さな笑みが溢れる。
外は寒い冬だが、二人の間にあるものは春の日だまりのように温かい。
「相変わらず仲がよろしいこと、」
耳朶に届いた声に二人は声が聞こえたドアの方に視線を向けた。
「一応、ここ実家って忘れてない?」
その姿を最後に見たのはあの病室で、自分とそっくりのその表情に酷く懐かしさを覚える。
「唯!」
「ノックしたけど返事ないから勝手に開けたけど、いちゃいちゃするなら妖館ですればいいのに、なまえちゃん、双熾さん。」
「これは大変失礼しました、お久し振りです。唯様。」
ドアを閉めると唯はその辺にあるイスに腰掛け、溜め息をついた。
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