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「なまえさま、僕はあなたを本当に尊敬します。もっともっと好きになりました。」
「えっ!?」
「僕はあなたと一緒で家族というものは分かりません。」
双熾の過去のことは前に全て聞いた。
同じように軟禁されて、両親の愛情もなにもなく過ごして。
沢山の想いを抱えてあの家を出てきたのだと。
「それでも、あなたは強くなってちゃんと立ち上がった。憎むこともせず、ちゃんと受け入れようと向き合う。それは、誰しも出来ることではない。」
彼女だから出来ること。
それはとても誇らしくもあり、眩しい。
「でも、家族っていいなってはなが来てから考え始めました。」
「はなさん、ですか?」
「その………は、はなと双熾さんと一緒にいたら、私と双熾さんと子供がいたらこんな感じなのかな、とか……」
恥ずかしい内容のあまり、顔を伏せてしまった。
フローリングの指定の位置ですわっているはなもこちらに顔を向けた。
猫と人間は違うと言ったのは自分なのに、
はなを育てていく内にそんな感情が芽生え始めていたのは事実。
しかし、そんなことをストレートに彼に伝えることはかなり恥ずかしいこと。
言ってしまってから遅いと気付いた。
「あ、あのー………」
「……………なまえさま。」
「は、はい。」
返事をしたのと同時にふわりと双熾の腕に包まれていた。
ただ優しく、壊れないようにそっと抱き締めるだけ。
それだけでも胸がドキドキとしてうるさいくらいになる。
「いつか………遠くない未来……」
抱き締められたまま、そのまま押されて二人でソファーに倒れこんだ。
かなり至近距離に双熾の顔があり、恥ずかしさのあまり背けようとしたが、
向けられた視線があまりにも切なく、今にも泣きそうだった。
「遠くない未来、僕たちも家族を愛していきたいです………」
「それは………」
お互い、家や両親、家族と向き合うのか。
それとも……
「僕はあなたに出会い、あなたを愛していく内に欲張りになりました。一番欲しかったものをねだってもよろしいですか?」
彼は年上でいつも大人びて、その背中を追うのにいつも必死だった。
でも、今は小さな子供のように、それ以上に愛しさが溢れた。
「はい。」
真っ直ぐに双熾を見据え、今できる精一杯の笑顔で応えた。
遠くない未来、
二人は限りなく広い蒼い海の下を変わらず歩いているだろう。
ずっと、ずっとわらって。
その間に芽吹いた命をきっと二人で愛しそうに見つめ、それよりも更に笑っているのだろうか。
瞳を閉じてそんな未来に想いを馳せた。
続く
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