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「はぁ………」
「大丈夫ですか、なまえさま。」
「あ、ごめんなさい。ただ単に疲れたなって思って……」
ふとついた溜め息に思わず双熾は主のことを心配した。
田所は休暇が今日で終わるとのことで、明日の準備もあるからと早々と戻ってしまった。
野ばらの提案で早めに部屋に戻って休むことにした。
まだ田所の話が現実味を帯びておらず、なんとなく複雑な気持ちだ。
「いえ、今日は色々なことがあってお疲れなのですから、早めに休んで下さい。」
双熾はそう言って部屋まで送り届けたが、なんとなくまだ心配で許可を得て部屋に上がることにした。
なまえは一旦着替えてからリビングに戻ると、双熾が淹れてくれた紅茶の薫りが広がっていたのだ。
「すみません、」
「なぜ謝るのですか?」
「田所にあんなこと言ったのに、まだ不安があるって………そんな弱い姿を見せちゃって。」
ソファーに腰掛け、紅茶を一口飲む。
身体に染み渡るように感じ、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。
改めて考えると、とんでもないことになった気がする。
「自分でも驚いてます、まさか両親がそういうことを言ってたこと、菖蒲さんや蜻蛉さんが知らない所で両親に私の話をしていたなんて……」
なまえの言葉ひとつひとつに双熾は真剣に耳を傾けた。
「本当はこれで良かったのか、まだ迷っています。」
痛いほど分かっていた。
彼女がその小さな肩にあの家の全てを背負わされ、自由を奪われて、両親の愛情さえも知らずに育ったこと。
それでも彼女はとても心優しい、
田所のお願いを断ることもせず、両親の少しずつ変わっていく姿をちゃんと見ようとする。
優しい、彼女のそんな所が好きなことは確か。
その優しさに沢山救われてきた自分だからこそ思う。
その酷く優しい心が傷付き、やがて壊れてしまう。
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