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心臓がドキドキとうるさい。
どこかまだ現実味がない話についていけない自分がそこにはいた。
「ですので、一度ご実家にお顔を出していただきたいという、私の個人的なお願いです。」
「田所……」
「今までのことが簡単に消えるとは思っておりません、ですが………」
彼は言葉を詰まらせた。
幼い頃から側にいた彼だからこそ、それが簡単なことではないと分かっているから。
それでも、それでも………
「今からでも、旦那様に奥様、それになまえ様に唯様の四人が普通の家族に戻れると思っています。」
普通の家族。
それはどんなに憧れても手に入らないものだと思っていた。
自分が先祖返りとして生きている限り、それは叶わない。
どんなにそれを欲しても自分が先祖返りである限り手に入らない。
両親が自分にしたことは全て間違っていたとは思わない。
一族の繁栄を願っての行動、それはきっと先祖返りが家にいる一族はそうすることも少なくはない。
これが運命だと諦めて、このままでもいいとさえおもっていた。
それは御狐神双熾という一人の青年によって変わった。
限りなく広がる空の下を歩いて、何気ない日常を過ごして、いつも誰かと笑い合って。
彼との出会いが自分をここまで変わらせてくれた。
だから、
「分かったわ………私も、みんなと………家族とちゃんと話がしたい。そう伝えてくれる?」
意を決して伝えた言葉、それを聞いた田所は今にも泣きそうな顔を一瞬したが、それを堪えて深々と頭を下げた。
「ありがとうございます、そのようにお伝え致します。」
「ありがとう、田所。」
彼にはきっと感謝してもしきれないくらいだ。
双熾に出会ったこと、両親と歩み寄れること、ここで生活出来たこと。
ここへ来てたくさんのものが変われた。
「………」
双熾の方を一瞬だけ目を向けると、目が合ってしまった。
彼はただ目を細めて嬉しそうに笑った。
続く
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