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紅茶の良い薫りが鼻孔をくすぐる。
目の前にはいつも通り、丁寧に紅茶を淹れてくれた双熾がカップを置いた。


そして、目の前にもう一つ置いた。


「申し訳ありません、本来は私のやるべきことですが……」

「いいえ、田所さんは本日はお客様ですので。お気になさらないでください。」


田所は双熾に頭を下げる、そして双熾は一歩下がったのだ。


チラっと目の前に視線を向ける。
彼とこういう風に向かい合って座ったことは記憶の中で一度もない。


狗崎に仕える執事の田所、間違っても主人達と同じテーブルにつくこともないだろう。


だが、今はこうして同じテーブルで向かい合って、更に双熾に出された同じ紅茶を飲んでいる。


とても違和感があったが、不思議と嫌な気分ではない。


「まずは、このように連絡もなしにここに来たことをお詫び致します。」

「えっと………」


開口一番が丁寧に頭を下げて謝罪とは、
いきなり言われてもそれこそ混乱してしまう。


「御迷惑と混乱を招くことだと重々承知しております。ですが、どうしてもなまえ様にお会いしたくてここに参りました。」


田所はどうやら休暇中で、一人で来たとのこと。
マンションの入口は厳重なセキュリティの為、なかに当然入れない。


アポイントもなしに来てしまったので、帰って来るまで外で待とうとした。


偶然、仕事が終わって早めに帰ってきた野ばらが入口に立っている田所と出会し、
とりあえず事情を聞くと野ばらは帰って来るまで、といってラウンジに通してくれたそうだ。


「野ばらさん、ありがとうございます。」

「いいのよ、お礼なんて。なまえちゃんの為ですもの。それに顔も知ってたから。もし変な奴だったら追い返してやろうと思ったしね。」


野ばらは小さく笑いながらそう言った。


田所は野ばらに今一度お礼を言い、今度はなまえに向き直り改めてここへ来た理由を話してくれた。








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