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「ふふ、くすぐっ………あはは、くすぐったいよ!」
「かわい……」
珍しい笑い声が妖館のラウンジに響いた。
それを微笑ましく見守る連勝、その姿を鼻血を流しながら見つめる野ばら。
そんな姿を若干一名、遠くから見つめるという表現は相応しくないが、大人しく見ていたのだ。
「なんでミケはそんな遠くにいるの?」
一人だけ異様な雰囲気を漂わせている為、それがものすごい気になって仕方ない。
とりあえず連勝は当の本人に聞いてみたのだ。
「せっかくなまえさまがはなさんと遊んでいらっしゃるので、僕はお邪魔する訳にもいかないですので離れて控えております。」
「いや、控えてるというよりミケが隠れている柱がへこんでいる気がするけど。ミケは猫嫌いなわけ?」
「いいえ、そんなはなさんに殺意が芽生え………お二人の楽しい時間をお邪魔することは僕には出来ないので。猫は好きですよ。」
「そっか、柱壊すなよ。」
双熾は連勝の言葉に、はいと返事をした。
しかし、双熾が柱の陰から彼女たちを覗く姿は明らかに異様だ。
そして双熾が手を添えている柱はメキメキと音を立てている。
「嫉妬深い男なんて醜いわね、御狐神。むしろ、なまえちゃんの少しあどけない笑顔を引き出せるあの子猫は素晴らしいわ!!あーん、あの表情メニアック!」
「どっちもどっちだな。」
「でもー、子猫はそーたんと相性悪いみたいだしねー?」
連勝の後ろのテーブルでお茶を飲んでいた夏目はふとそう言った。
「猫もミケもあいつにべったりだしな、互いに互いの好きなものを取られたくないんじゃねーの?」
「なになに、レンレンは寂しいの?」
夏目の言葉に思わず連勝の動きが止まった。
夏目の方に視線を向けると、彼は相変わらずの笑みを向けていたのだ。
「寂しいっていう訳じゃないけど、あいつがああして何にも縛られずに笑ってる姿が妙に嬉しいっつーか、そんな感じだな。」
「レンレン、お父さんみたいだよ?」
夏目の言っていることは間違っていないと思う。
彼女がここへ来て確実に良い方へ変わってきてる。
笑顔が増え、たくさんの物を目にして毎日楽しそうだというのは目に見えて分かる。
そして、彼女のそんな姿を日々見ている自分は彼女のその変化が嬉しいと思ってしまう。
「まだ、高校生だけどなー………」
多分、娘の成長を見守る父親にしか見えないだろうと、多少なりとも自覚はあったのだ。
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