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部屋には紅茶のポットやカップが運ばれる、軽やかな音が響く。
ソファーの前に置いてあるガラスのテーブルにそれらを並べ、あとは少し置いてから淹れるだけだ。
「このカップ、前に双熾さんが買ってくれたものです。」
桜の花びらが描かれたそのカップは、ここに来た時に双熾が選んでくれたもの。
ずっと使わずに置いていて、これを使う時は二人の時だと決めていたのだ。
「ありがとうございます、そのように大切にしてくださって嬉しいです。」
「こちらこそ、ありがとうございます。」
二人で微笑みあい、ちょうど良い具合になった紅茶をカップに注いだ。
「それではいただきます。」
「あ、ストレートで大丈夫ですか?」
「はい、紅茶の味を楽しみたいのでストレートで飲ませていただきます。」
双熾は小さく笑い、注がれた紅茶に口をつけた。
その様子を緊張した面持ちでなまえは見守った。
「とても美味しいです、やはりなまえさまが淹れられた紅茶には敵いませんね。」
「そ、そんなことないです……」
「本当のことですよ、それにこのような美味しい紅茶は初めてです。」
双熾の誉め言葉に思わず俯いてしまう。
こんなに誉められたことがない為、どう反応して良いか分からない。
純粋に嬉しいことは確かだった。
「前に、家庭科の先生に言われました。」
以前、家庭科の補修で先生に言われたことを双熾に話をした。
相手を想いながら作ること、
それを紅茶を淹れる時にも同じことをした。
双熾の為に、美味しくなるようにと。
「だから、美味しいのだと思います。」
「………………」
「そ、双熾さん?」
そのまま黙りこんだ双熾を不思議に思い、恐る恐る声を掛けてみたが反応はない。
暫くすると双熾の頬に涙が伝っていた。
「僕は幸せものです、こんなにあなたに想っていただけてるなんて………」
「えっ、あの………」
「この紅茶、永遠に保存します。」
「いっ、いやいや!!保存しないでください!普通に飲み干してください!」
当たり前のように言った双熾を必死に止めた。
少しだけ残念そうな表情が見えたが、それにも負けずに食い止めたのだった。
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