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「うーん、全部見える訳じゃないよ?ほんの一部とか?」
「そうなんですか?」
「僕のこと知りたくなった?」
「決してそういう訳じゃないです。」
夏目はその言葉につれないと泣き真似をするが、いつもの光景に思わず溜め息をつく。
「あんまなまえちゃんといると、そーたんに怒られるし☆」
「え?」
双熾の名前を出すと、夏目はなまえ後ろの方に言葉を投げた。
驚いて振り向くと、そこにはいつの間にか双熾がいたのだ。
「遅くなって申し訳ありません、」
「いやーん、そーたん!待ったよ☆」
「双熾さん!」
こちらに向かって距離を縮めた。
「じゃあ、お邪魔虫はここで退散するね。」
そう言って夏目は宣言通り退散し、
入れ替わりで双熾が側にきた。
唖然としていると、双熾が心配そうに顔を覗きこんできた。
「お話中に申し訳ありませんでした、」
「いえ、特に込み入った話でもなかったので………」
それを聞くと双熾は「そうですか」と言って、少しだけ安心したような表情になった。
「それより用事は終わったんですか?」
「ええ、部屋の電気一式が壊れてしまったようでその対処をしていました。」
「電気?」
双熾によると配線の不具合で部屋の電気が全てつかないとのこと、
業者に連絡等をしていて遅くなったと説明をした。
「業者を手配している間に手紙は書きましたが、業者との対応がありましたのでなまえさまに持って行っていただいて申し訳ありません。」
「そんなことは全然大丈夫ですけど、双熾さんの部屋は大丈夫なんですか?」
「はい、一応手配をして対処していただきましたが今日一日は部屋は使えない状態ですね。」
簡単に説明をした双熾だが、電気が一日使えないのは不便だし、
昼間は良くても夜は特にそうだろう。
しかし、双熾からそんな心配は一切感じられない。逆にそれが不安になる。
「どうするんですか?」
「空いてるお部屋を一日使わせていただきますが、なまえさまに何かあってはいけないので廊下で過ごそうと思います。」
「ろ、廊下!?」
「お邪魔にならないように廊下で寝ますので、何かありましたらお声を掛けてください。」
いつも通りの爽やか笑顔でもの凄いことを言っているが、
当の本人は至って真面目だ。
「それは…………ちょっと……」
「でしたら、お部屋の前で立っております。」
「それより体をちゃんと休ませてあげてください!連勝とか夏目さんの部屋に泊まるとか……」
まただと思った、自分の身より主の身を一番にして。
一緒にって約束なのに、最初に自分を犠牲にする。
複雑な感情が渦巻いた。
「それなら、私の部屋に泊まりますか?」
「え?」
しまったと思った時はもう既に遅かった。
なにも考えずに口走ってしまった言葉に、言った本人が驚いてしまう。
暫く、互いの間には沈黙が流れた。
続く
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